結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
そういえば、葛城さんはお酒は強いのだろうか。そもそも、さっき車の中で社長から聞いたのは経歴くらいで、彼がどんな人物なのかはほとんどわからない。

なんとなく話を聞いていて、とっつきにくい人なのかな、という想像はつくのだけど。


「あの、葛城さんってだいぶ気難しい方なんでしょうか」


ある程度マナーを教えてもらってから、綾瀬さんに遠慮がちに話を振ってみる。意外にも彼女は嫌な顔をせず、口を開いてくれた。


「どこの企業も、彼との取引を成功させたことはありません。自分のレシピを提供したり、他社と協力したりすることが嫌いらしいわ。プライドが高いんでしょうね」

「そうなんですね……」


やっぱり、彼との交渉は容易ではなさそうだ。

今日の会食では直接的なビジネスの話はしないだろうけれど、その思惑が隠されているのは葛城さんも重々承知しているはず。張り詰めた空気になったらどうしよう。

言いようのない不安に駆られ始める私に、綾瀬さんは憐みにも似た歪んだ笑みを作ってこんな言葉を放つ。


「そんな唯我独尊天才パティシエとの交渉に、あなたが貢献できるとは到底思えませんけど」


うっ、ちょっと酷すぎやしませんか……。でも、ここまではっきり言われると逆に清々しい。

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