結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
もはやあっぱれだと感心すらしていると、打ち合わせを終えた社長が戻ってきた。


「マナー講習は終わりましたか?」


和やかに問いかけてくる彼に、綾瀬さんはコロッといつものエレガントな雰囲気に変わり、笑顔で答える。


「完璧です。優秀な倉橋さんは覚えも早いですから。ね?」


こちらにくるりと顔を向け、可愛らしく小首を傾げる彼女は目が笑っていない。私は苦笑を浮かべ、「は、はい」と同意するしかなかった。

この人絶対女優になれるわ……と思いながら、用を終えてバッグを持つ綾瀬さんを眺める。

社長は申し訳なさそうな表情で、部屋を出ていこうとする彼女をそばで見送る。


「君も休みなのに、わざわざ出てきてもらって本当にすみませんでした。ありがとう」

「いえ。社長の頼みなら、どんなことでもお引き受けいたします。でも、今度埋め合わせしてくださいね」

「そのつもりです」


社長をとろけるような上目遣いで見上げ、とても嬉しそうに笑う彼女を見ていて、ふいにピンと来た。

ただの秘書にしては、社長への態度の糖度が高い気がする。もしかして、綾瀬さんは社長のことが好きなのかな……?

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