結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
そう仮定すると、私にあんなにきつく当たっていたことも納得できる。ずっと社長についているのに、急にその立場を私なんかに横取りされたら、決して良くは思わないだろう。

なんだか悪いことをしてしまったような気分になってきた。せめて彼女も同席したほうが、私が失敗するリスクも減っていたようにも思う。

後ろめたさや不安が入り混じり、完全にふたりきりになってから社長に聞いてみる。


「今さらですけど、綾瀬さんも同席しなくてよかったんですか?」

「あぁ。お前がいれば、他の女はいらない」


当然のごとくあっさりと返され、しかも彼に独占されているようなセリフに、一瞬息が止まった。

今の、甘い意味で好きな人から言われてみたい……! けど、干からびかけた私の乙女心には、今のでも十分潤いが補充されたわ!

申し訳ないけれど、綾瀬さんのことは一旦頭の隅にサッと追いやり、腕時計に目線を落とす社長に意識を集中させる。


「そろそろ時間だな。店の外で待っていよう」

「はい」


いよいよ接待が始まるのか、と気を引き締めて返事をした。

ただの研究員である私に、こんな日が訪れるとは。慣れなさすぎて緊張してしまう。

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