結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
しかし、葛城さんはすぐにタクシーに乗り込むだろうと思ったのに、なぜか私を見つめたまま動かない。


「倉橋さん、このあとの予定は?」

「え?」


突然そんなふうに聞かれて、間抜けな声がこぼれた。

ぽかんとしていると、彼は無造作に流れる前髪の隙間から覗く瞳を細め、妖艶さを感じる笑みを浮かべる。


「もう少し語り合いませんか。ふたりで」


予想外のお誘いに、私の目が点になる。

語り合うって、元素のことで? それなら大歓迎だけど、社長抜きでいいのかな。でも、社長は百パーセント興味ないだろうし、葛城さんの申し出を断るのも失礼な気がする。

とりあえず了承しておいたほうがいいか……と思ったとき、社長の声が私たちの間に入り込んできた。


「申し訳ありませんが、わが社では二次会が禁止されておりますので」


それは柔らかな口調だけれど毅然としていて、一瞬真顔になった葛城さんも、「それは残念。では、またの機会に」と、あっさり諦めた。

そんな規則あったかなと思っているうちに、葛城さんは今度こそタクシーに乗り込む。

車内からこちらに向かって小さく手を振る姿が可愛らしい彼に、私は笑顔で頭を下げ、走り去っていくのを見送った。

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