彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
ここから一番近い水族館までは大体車で三時間ぐらい。夕飯までに帰ってくることを考えると、この時間に出るのは決して早くはない。

オープンしたのは数年前で、子供たちにもかなり人気の水族館はいつも混んでるっていう噂だけど、気軽に行ける距離でもないので今までに一度も行ったことがない。


「私、はじめてなんです。その水族館行くの」

「かなり人気みたいですね」

「ヒトデとか直接触れるみたいで子供たちに大人気らしいです」


大きい水槽に沢山の魚が泳いでるのを見ていると時間が経つのを忘れてしまうほどだとか。


「…あ、でも別にヒトデには触らなくてもいいんですけど」

「フ 遠慮しなくてもいいですよ」


あ、またちょっと意地悪モード。
運転している横顔はちょっとだけ楽しそうで。

最近の主任はこういう言い方をする。
前に望亜奈さんの言ってた意地悪な主任っていうのがやっとわかった。


「そ、そう言えば車、どうしたんですか?」

「あぁ、昨日朔也が置いていきました」


え?昨日主任の家に飲みに来て置いていったのかな?


「予約を入れましたから、その時水族館の事も話しました」


なんか主任とデートみたいなことをしてからお店に行くのもちょっと恥ずかしいな。
別に朔也さんが何かを言ってくるわけじゃないけど、なんとなく。


「そう、ですか」

「……朔也に言わない方がよかったですか?」

「え?全然そんなこと、ないです」


だってちょっと恥ずかしかっただけだから。
もちろんそんなことは主任には言えないけれど。

言わない方がよかったかと聞いたときの主任はちょっとだけにこやかな表情が崩れた気がして。
主任とデート(みたいなこと)なんてもうこの先ないかもしれないから。
貴重なこの時間に少しでも楽しい表情の主任を見ていたくて。


「あとどのぐらいですかねー?」

「フフ まだもう少しかかりますよ」


急に話題を変えておかしかったけど、ちゃんとそんなのをわかった主任も合わせてくれたから。
今日はめいっぱいデートを楽しむことに決めた。
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