彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
全面ガラス張りのエントランス。
自然光が天井から入ってきて三月のこの季節でも日差しが暖かく感じられる空間。

口コミ通りに家族連れも多いけど、カップルらしき姿も結構いる。
入場券を買うのにも列が出来ていて水族館って人気のスポットなんだなーって改めて思う。

主任と一緒にその最後尾に並ぶ。
遊園地のアトラクションとかでもそうなんだけど、この待っている時間も結構楽しかったりする。
この時間をどれだけ有効に使うかでその日の充実度が全然違うんだよね。
なんて思いながらこっそり主任を盗み見る。

ん。こういうところでも似合っちゃうんだなぁ。
あ、これって恋は盲目とか言うアレかな?
いやいや、かなりかっこいいよね。
隣にいるのが私なんかでいいのかなって思わなくもないけど、今日は楽しむって決めたから。


「大人二枚」


またまた妄想の世界に入っている間に順番が回ってきたみたいでチケット買い終えた様子の主任。


「はい、どうぞ」


うわ。なんだろ。
今日の主任は笑顔が満載で、メガネもスーツもなくても三割増しかっこいい!
って、見とれている場合じゃない。
チケット代主任が先に払ってくれてるし、慌ててお財布を出しながら。


「あ。チケット代―――」
「今日はチョコのお礼ですから」


だからっ、そんな風に微笑まれたら私でも勘違いしますよ?
そんな私の頭の中の思いなんて気づくわけもない主任はあいかわらずの保護者ぶり。


「今日はかなり混んでるみたいですので、迷子にならないように」

「あ、はい。頑張ります」


何を頑張るのか、私。
なんでもっとかわいいこと言えないんだろう。


迷子にならないように手をそっと繋ぐとか。
いや、間違いなく自分からそんな事出来ない。

洋服の裾のほうをつかむとか。
お前はいくつだよってツッコミされそうだし。


楽しむって思ったばっかりなのに、どうしてこうも私の頭の中は妄想と突っ込みで一杯になるの。


「行きますよ?」


ほら。主任に何してんだって顔されちゃった。
また朝から失敗しちゃったのか、な?


伏せていた視線に飛び込んできたのは主任の手。


「迷子防止、必要ですよね?」


そう言って握られた右手。
驚いて顔を上げれば、ちょっと意地悪な顔をした主任と目が合った。


えっと、あの。
これこそまさに、デートみたいじゃないですかぁ。
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