彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
それからタクシーで主任の家にむかった。
あとで朔也さんが来るとはいえ、主任の家に二人きりだということに緊張して。
段々と言葉数も少なくなる。
朔也さんが早く来て欲しいような、しばらくは二人の空間に身をおきたいような。


主任の家に着いて、主任のリクエストによりコーヒーを淹れる私。
主任が豆を挽いてくれて普段はおいしいコーヒーを飲んでいたんだってことを知る。

たしか前にお邪魔した時は主任具合悪かったし、コーヒーを淹れてって言われたけどインスタントだった気がする。


「主任、お酒はもう、いいんですか?」

「あぁ、今はやめとく」

「じゃあ朔也さんが来たら…


ブーン ブーン

テーブルに置かれていた主任の携帯。
メールなのか着信なのか振動でそれを知らせている。


「たぶんこれ、朔也。アイツいつも電話してから来るから」


そう私に言ってから主任は携帯を手にとって話はじめた。


「店、終わり?」

「は?お前、何言ってんの?」


なんだか怪しい話の流れ?
主任の語気がだんだんと激しくなってくる。


「ムリ。大体お前が―――」

「ちょ、おい」


朔也さんからの電話らしいけど、主任の背中から不機嫌オーラーが見えてくる気がします。
話しかけづらい雰囲気たっぷり。


ハァー


今日何度めなのか。
主任の口から出たのはため息と「朔也が来れなくなった……」そんな言葉で。


「え?」

「なんだってアイツはこんなタイミングで」

「じゃあ、あの、私もそろそろ…」

「は?こんな時間に一人で帰るつもり?」

「近所ですし、だいじょ―――」
「とりあえず。コーヒー飲んでからにして」

「え?あ、はい。じゃあ……」


いつもの丁寧な言い方とはまた違う威圧感。
なれてないせいか、そんな主任が少しだけ怖いだなんて。

普段から愛想笑いなんてしない主任だけど、怒るとかそういう感情も表情に表れることなんてなくて。
なんだろう、この違和感。

こういう人間っぽい感情が見たかったはずなのに。
目の前のこの人は私の知ってる主任じゃないみたいで。私の好きになった堂地主任じゃない気がして。

堂地純哉という人が見たいと思ったのは私なのに……

カップに残っているコーヒーを見つめるしかできなくなってしまった。
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