彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
フラフラとトイレに行き、鏡を見る。
そこに映っていたのはなんとも情けない顔をした泣きそうな赤い顔の自分。


「ひどい顔……」


赤い顔はお酒のせい。
飲んでも何の解決にもならないっていうのはわかってる。
それはこの前、実証済み。
だけどその瞬間だけは忘れていられるから。


赤い顔を収めるために水で手を冷やしてから顔の熱を取る。
こんなことでこの情けない顔を消すことはできないけど、主任の記憶に残る私の顔は笑顔であって欲しい。


……私なんてすぐに忘れちゃうかもしれないのに。


最後にグロスを塗って鏡を確認する。
なんとか、さっきよりマシかな、

席に戻ると望亜奈さんが帰ってきていた。


「もう挨拶はいいんですか?」

「私が主任と話してたらさー。ほら、あの子達がきて」


ほら、と言って向けた視線の向こうには異動の噂を聞いてきたバイトの子達。
楽しそうに顔を赤らめて主任と話をしている。


「こんなチャンスはもう二度とないからわからなくもないんだけど、追い出されちゃったわよ」

「……そう、ですよね。飲み会に主任来た事なかったですもんね」


あの子達みたいに無邪気に近づいて話が出来ない。
笑顔で送ってあげることの出来ない情けない自分がキライ。


最後に伝えられればと思ってたけど。
そんなチャンスさえなさそうで。
また遠くから見つめる。


お礼だけでも、言いたい。
今言わなきゃ、もう言えないかも知れない。
そう思うといても急にたってもいられなくなって、握っていた梅酒のグラスを一気に飲み干した。


「ちょっと、桃ちゃん?」

「望亜奈さんっ。私も挨拶してきますっ」


その勢いのまま立ち上がり、主任のところに向かう。
大丈夫?と後ろで望亜奈さんが言ってたけど振り返らずに主任だけを見て。
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