幻影だとしても、
愛の麻薬
それから私はここに住み着くようになった。
彼は仕事帰りに必ずここに寄って
食材や雑誌なんかを買ってきてくれた。
あまり家具の置かれていなかったこの部屋は
私が住むには無機質すぎると言って一緒に家具を買いに行った。
仕事が残っている時には奥の仕事部屋で
篭って仕事をしていたけれど、
私がコーヒーを持って行けば“ありがとう”と
大好きな微笑みとともにそう言ってくれた。
「雅人さん…っ!?」
そんな何気ない、幸せと呼べる日々のある日。
今思えばそこが私と彼の今の関係の始まりで
私が“ミサさん”にとって恨むべき存在になった日。
「どうしたんですか!?」
ずぶ濡れで玄関に現れた彼はまるであの日の私のよう。
すぐにバスタオルを持ってきて、彼に渡した。
あの日彼が言ってくれたように風邪を引いてしまうと言って。
「え…?」
でも彼はそれは受け取らず、
何も言わずに私を強く、まるで繋ぎ止めるかのように抱きしめた。
それが私が愛と言う名の“麻薬”にハマった瞬間だった。