幻影だとしても、
その夜、私は始めて彼と体の関係を持った。


時々口にする“ミサ”という名前は、
今まで何度か聞いたことのある彼の妻の名前だった。

何も聞かなくても大体分かった。
ミサさんと何かあって、家を飛び出してきたこと。
今自分は、ミサさんと重ねて抱かれているということ。



「ま、さとさ…っ」



それでもよかった。

親に捨てられて、友人に裏切られて。
愛を知らずに生きてきた私にとって必要とされることは
本当に幸せなことだから。



そして何よりも彼に思いを寄せていたから。

彼が私を誰かと重ねていても、
今は、今だけは彼は私の傍にいて必要としてくれている。
私が彼を必要とするのと同じように。



「愛してる…っ」



彼のこの言葉が私に向けられた物ではなくても
私はそれでもよかったんだ。
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