奈良まち はじまり 朝ごはん
「朝はこれ、って決めているのよ。茶粥ってね、・おかいさん・と呼ばれて昔からこの地方では常食だったのよ」
「常食ってことは、こればっかり食べていたってことですか?」
白米を食べる習慣がなかったのだろうか?
「他にもお茶の量によって・あげ茶・とか・ごぼ・なんて呼ばれているくらい、調理方法も様々だったのよ。あたし、これを食べなきゃ一日が始まらないのよねぇ」
もう昼過ぎだというのに、おいしそうにほおばりながら言う和豆さんの朝は遅いらしい。
「緑茶じゃなくて、茶色いお茶なんですね」
「これはほうじ茶よ。奈良で茶粥、って言えばほうじ茶を使うのが一般的よ」
「でも、同じ味だと飽きちゃいそう」
「だって、常食だもの。それに、古来から続いている伝統を守っている感じも好きよ」
ウインクまでしてくるので、少し体をのけぞらせて曖昧にうなずいておいた。
「詩織ちゃんはもう仕事には慣れたの?」
尋ねてからさらに茶粥を口に運ぶ和豆さん。背後にある中庭からは、雨の音だけが聞こえている。梅雨さえ終われば夏がやってくるんだ。
なんとか季節をひとつ越えられそうなことにホッとしていた。
「少しは慣れたと思います……」
「けど?」
不思議だけれど、和豆さんはこうして私の心理を読み取ってくる。初めは抵抗していたけれど、誰かに話を聞いてもらえるのは正直うれしくって、つい打ち明けてしまう。
「なんだかもどかしくって」
今日もまた心にあるモヤモヤを聞いてもらう私。
「もどかしい?」
「なんて言えばいいのか……仕事も接客も、もっとうまくできるようになりたいんです」
夏芽ちゃんのこともそうだけれど、雄也が言うようにお客さんと接しているとみなそれぞれに悩みがあるんだ、って知ってしまう。もちろん雄也は『余計なことはするな』って言ってくるけれど、自ら首を突っこんでいるのは紛れもなく私。そのくせ、気の利いたことやアドバイスができない自分がもどかしかった。
和豆さんは黙って最後の一滴まで茶粥を飲み干すと、
「それでいいのよ」
と、言った。
「いい、って?」
「詩織ちゃんはそれでいいの。今のままでじゅうぶん役に立ってるわよ」
「そうかな……」
唇をとがらせる私に、和豆さんは「そうよ」と力強くうなずいた。
「常食ってことは、こればっかり食べていたってことですか?」
白米を食べる習慣がなかったのだろうか?
「他にもお茶の量によって・あげ茶・とか・ごぼ・なんて呼ばれているくらい、調理方法も様々だったのよ。あたし、これを食べなきゃ一日が始まらないのよねぇ」
もう昼過ぎだというのに、おいしそうにほおばりながら言う和豆さんの朝は遅いらしい。
「緑茶じゃなくて、茶色いお茶なんですね」
「これはほうじ茶よ。奈良で茶粥、って言えばほうじ茶を使うのが一般的よ」
「でも、同じ味だと飽きちゃいそう」
「だって、常食だもの。それに、古来から続いている伝統を守っている感じも好きよ」
ウインクまでしてくるので、少し体をのけぞらせて曖昧にうなずいておいた。
「詩織ちゃんはもう仕事には慣れたの?」
尋ねてからさらに茶粥を口に運ぶ和豆さん。背後にある中庭からは、雨の音だけが聞こえている。梅雨さえ終われば夏がやってくるんだ。
なんとか季節をひとつ越えられそうなことにホッとしていた。
「少しは慣れたと思います……」
「けど?」
不思議だけれど、和豆さんはこうして私の心理を読み取ってくる。初めは抵抗していたけれど、誰かに話を聞いてもらえるのは正直うれしくって、つい打ち明けてしまう。
「なんだかもどかしくって」
今日もまた心にあるモヤモヤを聞いてもらう私。
「もどかしい?」
「なんて言えばいいのか……仕事も接客も、もっとうまくできるようになりたいんです」
夏芽ちゃんのこともそうだけれど、雄也が言うようにお客さんと接しているとみなそれぞれに悩みがあるんだ、って知ってしまう。もちろん雄也は『余計なことはするな』って言ってくるけれど、自ら首を突っこんでいるのは紛れもなく私。そのくせ、気の利いたことやアドバイスができない自分がもどかしかった。
和豆さんは黙って最後の一滴まで茶粥を飲み干すと、
「それでいいのよ」
と、言った。
「いい、って?」
「詩織ちゃんはそれでいいの。今のままでじゅうぶん役に立ってるわよ」
「そうかな……」
唇をとがらせる私に、和豆さんは「そうよ」と力強くうなずいた。