優しさは灰色








「おはよう」



マコちゃん、伊藤、と自分の名前を呼ばれる。

明るい声に袖を引かれ、私は後ろを振り返った。

同じように言葉を返しながら、追いつかれたふたり分の陰に自分のものを並べる。



「真優。健人も、おはよう」



ふわふわロングヘアの上条 真優(かみじょう まゆ)と、短髪の岡田 健人(おかだ けんと)。

ふたりとも去年高校に入って、同じクラスになったことから仲よくなった友だちだ。

私と違って穏やかで優しいふたりは、どことなく似ているように思う。



雰囲気や仕草、言葉選びに好きなもの。

そういった染みついたもの、彼らを構成するものが似ている。



私たちが身に纏うのは男女共通の白シャツ。

それから女子は紺のプリーツスカートと、同じ素材のベスト。

まるでワンピースのように見えるそれは、私と真優の着こなしではずいぶんと印象が変わる。



どこかのお嬢さまみたいな上品な雰囲気をまとう彼女とは違って、私はなにとも言いがたい。

短く折ったスカートからは膝がのぞいているし、おしとやかとは程遠い。



中学校から同じだったふたりは、家も近所らしい。

私が登校中に会うのは珍しいけど、ふたりは結構時間が被るらしく一緒に教室に入って来ることが度々ある。



「聞いて、マコちゃん。今日はね、卵焼きが上手に焼けたんだよ」

「へぇ、よかったじゃん」

「うん! 星座占いも1位だったし、いいことありそう〜」



弾むように歩く彼女の肩にかかった鞄が縦に揺れる。

真優が気づかないほどかすかに、それが私の腕をかすめた。



「上条の卵焼き、いつも美味しいよね」



真優を挟んだ奥、にこにこと笑って話を聞いていた健人がそう声をかける。

ああ、その瞬間、隣では体温が上がったみたいだ。






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