優しさは灰色
「そう、かなぁ?」
「そうだよ。僕は上条の甘い卵焼き、好きだもん」
「じゃあ……」
震えるように、息を吸って。
真優が小首を傾げた拍子に、さらりと髪が揺れて光を弾いた。
その輝きが眩しくて、私は目を細める。
「じゃあ、健人くんに、卵焼きひとつあげるね」
本当に? と喜ぶ健人の頰は赤い。
それにつられるように、真優の頰が綻んでいく。
目の前で起きている茶番に、私は口を挟むことはできない。
砂糖の入れすぎた卵焼きみたいにじゃりじゃりとした舌触りのような、不快感。
とろりとした白身と、鮮やかな黄身が混ざるように、真優の笑みは幸福と共に膨らんだ。
だけど、彼女は、次の瞬間気づく。
「っ、」
私が蚊帳の外であること。
私が健人と話していないこと。
自分だけが健人と話していたこと。
そうして真優が表情を固まらせ、一瞬私をうかがってくる。
まぶたを伏せて、恐る恐る。怯えたように、まつげを震わせた。
私はその瞬間が、心底嫌いだ。
大嫌い。
「マコちゃんも、卵焼きよかったら食べてくれる?」
「真優の卵焼きは、いつもふたつしか入っていないのに? 私はいいから、健人と食べなよ」
「あ、それなら、僕はいいよ」
譲り合い、微笑み合い。だけど私だけは違う。
きっとこんなことを言えば、真優も健人も気を遣って譲ってくれるとわかっていた。
実際には誰が真優の上手に焼けた卵焼きを、今日だけ特別な卵焼きを食べるのか。
さぁ、昼になればわかるだろう。