優しさは灰色




周りからしてみれば私の行動や発言が明らかに邪魔だとわかるほど、ふたりの感情は透けて見える。



真優は健人が好きだ。健人も真優が好きだ。

だけどふたりは付き合っていない。

それは、私も健人のことが好きだから。



真優と私は、健人への気持ちをはっきり言葉にしたことはない。

相談したことがなければ、応援してと頼んだこともない。

だけど私たちは互いに相手の恋心を知っていたし、知らないふりをし、その上で己の感情を持て余していた。



そんなばかげたことをしているのも、彼女の優しさだ。

私は彼女が私の気持ちを考えてくれることに甘えている。



うわべだけ取り繕った会話を下駄箱に、廊下に落として、少しずつ狭い私たちの世界へと足を進める。

教室に入れば、ひとまず別れて自分たちの席へと向かう。

その際に、目があうひとりの人。



白シャツに、黒スラックス。他の人と違う着こなしをしているわけでもないのに不思議と目を引く彼は、鳴瀬 仁(なるせ じん)。

いつだって私を睨みつけるように見つめている。



今だって、教室の端と端で距離があるから声をかけあうことはない。

だけど視線だけはしっかりと絡む。



私は鳴瀬が苦手だ。

そう、彼はなんだか私の感情を透かして見ているみたいなんだもん。



……ううん、きっと〝みたい〟なんかじゃない。

鳴瀬は私の考えていることや、していることを知っている。

灰色に汚れていく消しゴムのように歪んでいく私の気持ちも、全部、全部。



だからだろうか、私もどこか彼の行動がわかってしまう。



卵焼きが上手に焼けて、星座占いが1位で、真優にとっていい日なら。

私にとっては最低最悪な日だ。

今日はきっと、私の恋の命日だ。






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