優しさは灰色
「ふたりともお疲れさま。やっぱりわたしも手伝えばよかったね」
「大丈夫。上条は日直じゃないのに付き合わすのも悪いし」
「わたしは気にしないのになぁ。まぁ、じゃあ、これでも食べて」
労ってくれる真優から、すすす、と小さな箱を差し出される。
椅子に腰かけてながらなにかと見てみれば、スティック状のビスケットにチョコレートできのこの形をしているお菓子。
「あ、きのこ民族だ」
嬉しそうに顔を綻ばせて、健人が素直に手を伸ばす。
「僕、きのこ派なんだよね」
「そうなの? わたしもきのこの方が好きなんだ。チョコレートがしっかり感じられて美味しいよね」
「わかる〜」
サクッとふたりがチョコレート菓子をつまむ。
私も食べるように促されたけど、首を横に振る。
「私、たけのこ部族派だから」
ほら、こういうところ。
ふたりはやっぱり似ていて、私とは違って。相容れないなと思う瞬間は数え切れないほどあった。
今だってそうだ。
美味しいのにね、と顔を見合わせるふたりを見て、きのこなんてと思ってしまう。
なんて醜い思考だろう。
そんなふうに考えていると、突然、後ろから肩をトントンと叩かれる。
驚いて顔を上がれば、相手は鳴瀬だ。
「伊藤、消しゴム貸して」
「なんで私?」
「いいから」
そういうのって普通、親しい友人に頼むものじゃないの?
滅多に言葉を交わさない関係だっていうのに、なんなんだ。
そもそも今日の授業は残り2時間しかないのに、午前中は消しゴムがないままどうしていたんだろう。
でもまぁ、なんだっていいか。
真優たちを見ていると、心にモヤがかかる。
なにも悪くないものにまで嫉妬して胸が苦しくなるから、こうして少しでも気を紛らわすことができるなら、もうなんだって構わない。
ペンケースから取り出した消しゴムを、彼の手に乗せた。