優しさは灰色
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ほとんどの人がいなくなった教室は、みんなが部活に行った直後なこともあって、熱気がまだ残っているみたい。
外は明るいし、人の気配もある。
ここにいるのは、私と、健人と、それから鳴瀬だ。
日直だった健人と私はわかるけど、鳴瀬がここにいる必要なんてなく、本当ならもうとっくにここからいなくなっていたはずだったのに。
課題を出し忘れたから、今してるんだなんて、きっと嘘だ。
「今日の3限の体育って、男子はなにしてた?」
「バスケだよ」
「あ〜、そっかそっか」
シャーペンの先が削れていく。
短くなっては、シャーペンの頭を押して芯だけを出す。
「なあ、健人。お前さ、上条に告んないのってなんで?」
カラン、と健人のシャーペンが床の上で跳ねた。
掌から転がり落ちたそれは、彼の動揺の表れだ。
「鳴瀬!」
「な、なに言って、」
真っ赤に染まった顔が、愛おしくて大嫌いだ。
真優のことでこんなにも焦って、いつも柔らかい笑顔を浮かべている彼らしくない姿がどうしようもなく憎い。
健人がこんなふうになるのは、真優に関することだけだから。
「中途半端なまんまなやつがいるから」
ちらり、と視線を私に向けられる。
怒ったような、苦しそうな瞳に、私は一瞬声を失う。
「健人はもっと周りを見た方がいい」
「それってどういうこと……?」
「消しゴム。お前の消しゴム、見てみろよ」