キミは俺のモノでしょ
うららはその言葉を吐いたとき、まっすぐ俺の目をみていた。

さっきまで、おどおどしていたくせに。

いつもこんな顔……しないくせに。


妙に真剣な顔つきをしているうららに、少し身構えてしまった。


落ち着け。

話を自然に違う方向に持っていくんだ。


「うららが、うなされていたからだよ」

「そっか……」

「でも、ただの夢だ。もう怖くない」

「…………」

「さ、仕度しなきゃ。遅れちゃう」

「…………」

「うらら?」


なにか言いたげなうらら。


お願いだから、余計なことは……考えるな。


「もう、なんの心配もいらないよ。俺がそばにいるから」


いつものように優しい兄を演じているわけでなく、その言葉は紛れもなく俺の本心だった。


感情のない言葉の方がスムーズに口から出てくると思っていたけど、違った。

どうしても伝えたい想いというのは、ときに考えるより先に発してしまうことがあるらしい。


俺はとにかくうららの近くにいたかった。

うららのこと……

見張っていたかった。

父や母の前で記憶が戻り、余計なことを言い出してしまっては困るから。

そして単純に、うららという一人の人間と、一緒にいたかった。

そばにいたかった。


だから口からすっと『そばにいるから』なんて言葉が出たんだ。
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