今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「せ、わ……」

 反芻して、思わずじろじろとララを見る。世話といえばあのいわゆる侍女というものを連想するのだが、ララはアリーナの知っている侍女とは掛け離れていた。
 エプロンにヘッドドレスなど、身につけているものは確かにそう言えなくもないが、腰に提げた無骨な剣が完全に浮いている。護身用の短刀ではなく、明らかに人を斬るためのあれだ。

「ああ、これはお気になさらず」

「は、あ……はは」

 アリーナは愛想笑いを返しながら半歩下がった。
 まさかこれは、もしもの時の口封じに──

「あとは頼む」

「はい、陛下」

 青ざめるアリーナをよそにカディスは部屋を出ていった。

「さて、と」

 腰を折ってカディスを見送ったララがくるりと振り返る。
 視線を逸らしたアリーナをじいっと見つめてから、はぁあああと長いため息をつく。

「もー、そんなに警戒しないでくださいよう! 剣を提げてるのは護衛も兼ねてるからってだけですから!」

「え……護衛?」

「ええ。こう見えても私、ちょっと腕には自信があるんですよ?」

 ふんすと鼻を鳴らして腕を曲げるが、服の上からだとよくわからない。よく見ると袖がパフスリーブのようになっていて可愛いなという感想を抱いたくらいだ。

 怯えから呆れ顔に転じたアリーナに少し安堵したのかララが破顔した。
 そしてそのままずいっと顔を近づける。

「といいますか、アリーナ様ってもっっ……たいないですよねぇ」

「……え」

「いくら何でもお洒落に頓着が無さすぎます。少し綺麗にすればそんじょそこらのご令嬢には見劣りしませんよ。ええ、長く侍女として働いてきた私が保証しましょう!」

 ララはそう言ってひとり頻りに頷いている。

「うーん、ドレスはやっぱりお綺麗な瞳の色に合わせてグリーンがいいですかねぇ……でもエクリュも捨てがたい……」

「あの」

「と、その前にお風呂ですね。お湯はもうはってありますので! 準備は私がお手伝い致します!」

 アリーナの服を引っペがそうとララが掴みかかってくる。ララは可憐な見た目からは想像できないような馬鹿力で、アリーナは必死に抵抗しながら叫んだ。

「いいですいいです! そのくらい自分でやりますから!」



 乳白色の温かなお湯に肩まで浸かって、アリーナはため息をついた。
 服を脱がされないようにすることばかりに気を取られて、思わず普通にお風呂に入ってしまった。長居をするつもりは全くないのに、寛いでしまっている。

「アリーナ様、お湯加減いかがですか?」

 カーテンの向こうから聞こえるララの声。
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