今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
 ──夜。
 ずっと傍にララがいたせいで、部屋から文字通り一歩も外に出られなかった。

 ベッドに入ってはみたものの寝つけず、布団にくるまってじっとしていた。どのくらいが経ったのか、やがてララの気配がなくなった。
 寝たと判断されたのか。いくら護衛か監視役かと言っても、流石に睡眠は必要だろうから仕方がないことだ。

 アリーナはゆっくりと体を起こして様子をうかがう。

 ──今がチャンスだ。

 ごくりと唾を飲み込む。音を立てないようにベッドから降り、ドアノブを回して……開いた。手入れされた蝶番は微かにも鳴らない。
 胸を撫で下ろし、そうっと廊下に出る。裸足で物音が立たないので、誰もいないことを確認してから走る。正しい道は、もちろんわからないけれど。
 廊下の窓から外を見る。とても飛び降りられそうな高さではない。とりあえず、階段を探すしかなさそうだ。

 誰かに見つかれば終わり。アリーナはいやでも荒くなる呼吸を必死に飲み下した。

 静まりかえった城をひた走る。灯りは僅かに揺らぐ蝋燭のみ。

「え……行き止まり!?」

 扉が開かない。仕方なく引き返し、他の方向へ。

「ここも……」

 いくつも通路はわかれているのに、進めるのはひとつだけ。まるで誘導されているかのように嫌な感じはしていても、そこへ行くしかない。

 暫く行くと、ある扉から明かりが漏れているのが見えた。城が寝静まっているこんな時間に、誰が何をしているのだろう。
 とにかく、見つかってはいけない。そろりそろりとその前を通り過ぎようとした時──がちゃん! と大きな音がして、アリーナは心臓が飛び出しそうな思いがした。
 部屋の中からだ。

 扉に耳を当ててみる。あれだけ大きな音がしたあとなのに、恐ろしいほど静かだ。
 アリーナは逡巡した。見つかっては困る。困るけれど──もしこれが、何か恐ろしいことが起きた音だったなら。

 廊下にあった壺を抱きかかえる。もしもの時は、これで殴ろう。そう決意し、結局アリーナは部屋に飛び込んだ。
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