今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
皇帝陛下の秘密
 目を開ける。ベッドの中だということに気がついてアリーナは嘆息した。また気を失ってしまったらしい。そんなに弱いつもりではなかったのだけれど。

 立ち上がろうとして目眩がした。たまらずベッドに腰掛け直す。

「……?」

「アリーナ様」

 ララの声に、弾かれたようにそちらを向いた。腰にさがった剣を見て、今更ながら血の気が引くのを感じた。
 斬られる、のだろうか。

「ララ、さん……その、に、逃げたわけでは」

 弁明をはかるアリーナにララが飛びついた。ぎゅうと抱き締められる。

「アリーナ様。申し訳ありません……!」

「え、え? なんでララさんが謝るんですか?」

 ララは体を離すと誤魔化すように微笑んだ。理由を話してくれる気はないらしい。

 また、くらりとする。そんなアリーナを見てララが困ったように眉尻を下げて肩を竦めた。

「貧血ですよ。陛下がやりすぎたんです」

 思い出したように首筋が疼き始める。唇を噛み、手をやって触れたくなるのを我慢する。

「あの。私たちを見つけたのは……」

「大丈夫です。私ですから」

 ほっと胸を撫で下ろす。そうそう他人に見られては困る。あんな……痴態を。

「金髪碧眼の、本が好きな貴族の方が来たんですか?」

 情報量の少なさにララは笑ったようだった。

「たぶん合ってます。セルジュ様という方ですよ。会われたんですか?」

「はい。そのセルジュ様って──」

 がちゃり、とノブの回る音。近づいてくる足音。でも、そちらを見れなかった。
 
「アリーナ」

 少し遠慮がちな低い声。

「アリーナ……すまない。そんなつもりではなかった」

 そんなつもり? 『ティア』の代わりにするつもり、ということ?

 ──無理だ。嫌だ。
 今は、何故だか会いたくない。

 わかりやすくていいと、割り切ったはずなのに。
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