今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
助けを求めようとララの方を見たが、目を離した一瞬のうちにいなくなっていた。最初に出会った時も思ったが、一体どんな身体能力をしているのだろう。侍女より暗殺者とかの方が向いている気がする。
「別に、気にしていません。その代わり、ちゃんと説明してください。あなたが吸血鬼なのかどうかも」
思っていたよりもずっと硬い声が出て、舌打ちをしたい気持ちになった。我ながら、これは全然気にしていない声色ではない。
「……わかった」
カディスは椅子を持ってきて傍らに座った。
「そうだな……おそらく、俺はお前たちのいう吸血鬼だ、と思う。他にいないので確信を持てない。情報として残っているのは昔の文献だけだ」
それであの男──セルジュは知っていたのか、とアリーナは納得する。
「ただ、自分が他の者たちよりかなり身軽なのは自覚している。あれだけ武勲をあげられたのもそのせいだ。人間が何人で襲ってこようと負ける気は全くしない。……それから」
言いにくそうに視線を逸らす。
「長い間血を口にしないと『発作』が出る」
「それが昨日の?」
「ああ。今の自分の意識がなくなって、吸血鬼の方の自分が強くなる。血の匂いに反応して……」
カディスが一時口を噤んだ。
「だから、そうならないように我慢していた。だが気が緩んでいたのか、久しぶりに血を飲んだせいで、箍が外れてしまったらしい。……すまない」
久しぶり。
何となく、いらっとした。久しぶりということは、自分の前にも誰かが──
はっと我に返り、慌てて首を振る。何を気にしているんだろう。そんなのどうでもいいことだ。
「別にあなたなら、いくらでも血なんて飲めるでしょうに。『皇帝陛下』ですよ? 強要しなくても、誰でも頷くでしょう」
「誰でもは駄目だ。飲める血と飲めない血がある」
「それで私は飲める血、だと」
「そうだな」
「……じゃあ、」
『ティア』は?
口を開いて、閉じる。
「いえ……やっぱり……何でもないです」
どうして、言えないのだろう。
一度深く呼吸をした。それでも心に溜まったもやもやは晴れない。
「別に、気にしていません。その代わり、ちゃんと説明してください。あなたが吸血鬼なのかどうかも」
思っていたよりもずっと硬い声が出て、舌打ちをしたい気持ちになった。我ながら、これは全然気にしていない声色ではない。
「……わかった」
カディスは椅子を持ってきて傍らに座った。
「そうだな……おそらく、俺はお前たちのいう吸血鬼だ、と思う。他にいないので確信を持てない。情報として残っているのは昔の文献だけだ」
それであの男──セルジュは知っていたのか、とアリーナは納得する。
「ただ、自分が他の者たちよりかなり身軽なのは自覚している。あれだけ武勲をあげられたのもそのせいだ。人間が何人で襲ってこようと負ける気は全くしない。……それから」
言いにくそうに視線を逸らす。
「長い間血を口にしないと『発作』が出る」
「それが昨日の?」
「ああ。今の自分の意識がなくなって、吸血鬼の方の自分が強くなる。血の匂いに反応して……」
カディスが一時口を噤んだ。
「だから、そうならないように我慢していた。だが気が緩んでいたのか、久しぶりに血を飲んだせいで、箍が外れてしまったらしい。……すまない」
久しぶり。
何となく、いらっとした。久しぶりということは、自分の前にも誰かが──
はっと我に返り、慌てて首を振る。何を気にしているんだろう。そんなのどうでもいいことだ。
「別にあなたなら、いくらでも血なんて飲めるでしょうに。『皇帝陛下』ですよ? 強要しなくても、誰でも頷くでしょう」
「誰でもは駄目だ。飲める血と飲めない血がある」
「それで私は飲める血、だと」
「そうだな」
「……じゃあ、」
『ティア』は?
口を開いて、閉じる。
「いえ……やっぱり……何でもないです」
どうして、言えないのだろう。
一度深く呼吸をした。それでも心に溜まったもやもやは晴れない。