今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「諸権利は当然剥奪しているが、今はソリティア公爵領を与えている」

 それで、とカディスがアリーナを見る。

「アリーナには、セルジュの養子になってもらう」

「養子……って、そんなに歳変わりませんよね?」

「今年で25になります」

 セルジュが言う。やはり大して年上ではない。

「何も本当に子になれというわけではない。家柄が必要だからだ。養子になればお前は公爵令嬢になる。名前だけ、だがな」

「そもそもどうして家柄なんて……」

 訝しむ表情で見つめると、カディスは「理由はある」と腕を組んだ。

「2ヶ月後、俺はドゥーブルに出向くことになっている。ちなみにレガッタとドゥーブルとの関係は」

「知ってます。レガッタ、ミノルカ、ドゥーブル、フィルンが四大国。ミノルカはレガッタの友好国、フィルンはドゥーブルの属国で、主に対立しているのはレガッタとドゥーブル……ですよね」

「思いもよらず正確な知識ですね? 馬鹿にするつもりはないですが、そんなことを一体どこで?」

 セルジュに問われアリーナはふいと目を逸らした。

「そ、それは今は関係ないでしょう。それより出向くって、また戦争でもするつもりなんですか?」

 カディスが小さく首を振る。

「いや。今のところそのような予定は無い。今は一応休戦中ということになっているからな。『人質』を交換して」

「人質?」

「ある程度の身分の者をな。国境付近は睨み合っているが、先代が引き起こした愚かな戦争は一先ず沈静化している。
今回ドゥーブルに行くのは、正式に友好関係を築くためだ。あくまでこちらは、な」

 暗に向こうはどう思っているかわからないと言い、カディスは皮肉げに笑った。

「その時お前には俺の婚約者として同行してもらうつもりだ」

「こ……こんやくしゃ!?」

 素っ頓狂な声を上げてしまう。

「一国を統べる皇帝ともあろうものが夜会でパートナーがいないなどということになれば、流石に面目が立たないだろう」

「はぁ、そういうもんなんですか……体裁とか色々と大変ですね、偉い方々は。
というか、私じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「これも衣食住を保証されるための仕事のひとつだと思えばいい。俺について来ればいいだけだ。それほど難しいことではないだろう」

 そう言われては文句は言えなかった。

「というわけで、2ヶ月の間にお前にはマナーと知識を詰め込んでもらう。作法はララに、歴史などはセルジュに。俺とはダンスの練習を」

「わ、わかり、ました」

「時間が無いですから、頑張りましょうね」

 セルジュににっこりと微笑まれ、アリーナは顔を引き攣らせた。
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