今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「じゃあ最初は、ドゥーブルの王族について聞きたいです。どんな王様なのか、とか」

「国を統べる点では同じでも、陛下とは大分違いますね。陛下は民の言葉を重んじますが、ドゥーブル国王はある意味一貫性のある政治をしています。ドゥーブル王国は王が全てを支配する絶対王政を敷いていますから」

「怖い、ですか?」

「王族ですから、多少は威圧感があるでしょう。しかし本当に怖いのは、国王の一存で全てが決まること、ですね。彼が戦争をと言えば戦争が起こります」

「じゃあ今回そこに向かうのは、国王の機嫌を取ろうということ?」

「そのようなことは考えていないと思います。というのも、ドゥーブル国王がレガッタと話し合いをしようとするの自体が戦争が始まって以来初めてのことなのです。ドゥーブルの軍をほぼ一人で壊滅させた陛下の腕に敵ながら感銘を受けたとかで、会って話をしてみたいと」

「そんなの、絶対嘘!」

 強い口調で言ってからはっとして、もにょもにょと口の中で呟く。

「いやあええと、それって、なんていうか、罠じゃ……」

 どうせカディスを殺すつもりに決まっている。貴族なんてろくでもない。王になれば尚更。いくら過去に単騎で大軍を倒したとしても、来るとわかっていて迎え撃たれるのは訳が違う。
 ましてこちらは戦うつもりの装備ではないのだ。

「たとえそうだとしても、初めて話し合いができるかもしれないこの機会を、陛下が逃すはずありません」

「レガッタ国王と同じように、その気になればドゥーブル国王も殺せるくせに」

 皮肉をこめてぼそりと呟いたアリーナの言葉を、しかしセルジュは否定しなかった。

「今、陛下はそれを望んでいませんから」

「……やっぱり、変な人」

 力を持っているくせに、使わないなんて。
 そもそも、どうして吸血鬼は迷信になるまで数が減ったのだろう。それほど強い存在が淘汰されるとも思えないのだけれど。

「吸血鬼って、弱点とかあるんですか?」

「陛下の寝首でもかくつもりで?」

「さすがにそんなことしませんよ……!」

「冗談です。そうですね、文献には日光や銀、ロザリオなんかが苦手だと書かれていましたが、陛下はどれも大丈夫だと仰られていました」

「じゃあ、なんで吸血鬼は滅んだんですか?」

 セルジュは慈しむような、無垢な幼子を見るような目でこちらを見ると小さく微笑んだ。

「それは、きっといつか。今は教えられません」

「……そう、ですか」

 やはりなんとなく子供扱いされているような気がしてアリーナは頬を膨らませた。

「では、続きを──」

 ドアノブが回る音がしてそちらを見ると、のぞいたのは癖のない艶々とした黒髪だった。
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