今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
ゆるやかに首を振り、内容に似つかわしくない至って軽い口調で。
「同じ国の支配者でも、これだけ違うのだとわかりました。この人なら、本当に戦いを終わらせてくれるかもしれないと思えたのです。私は私の望む未来のために、陛下のお役に立てるよう働きたい。今はただその一心です」
そう言い切ったララは、素早く抜いた剣を自身の首にあてがった。
白い肌に刃がくい込み、ぷちりと血の玉が浮く。
「な、何してるんですかっ、ララさん!」
「今まで黙ってお傍に居たこと、ドゥーブルの間者と思われても仕方ありません。信じてもらうには、こうするしか……私には方法が思いつかない」
悲壮な顔でぎりと歯を食いしばり、さらに腕に力を入れるララ。アリーナは考える前に彼女に飛びついた。
「アリーナ様! 危険です!」
慌てて剣を手放すララを、アリーナは強く抱き締める。
「アリーナ、様?」
「最初からそんなこと疑ってるわけない。いけ好かないって思ってたらそもそも仲良くしなかった。もうこういうことしないって、約束してくれたら離す!」
「……では、約束しないことにしましょうか」
沈黙の後そう答えたララにアリーナが思わず体を離して見上げると、ララがぎゅうと抱き締め返してきた。
「離して欲しくないので」
くすりとアリーナは笑う。ドゥーブルに向かうとなってララもずっと不安だったのだろう。そっと背を撫でた。
「あ、これお返しします。ブローチに彫られていたのは王家の紋章だったんですね。なんて言うか、ドゥーブルの王族は随分怖がられ……いえ、畏怖されているみたいですね」
「まあ、実際に怖がられていると思います。そういう国なんです。……どうぞお気になさらず」
ブローチを受け取ったララは苦笑した。
「『人質』としてではなく、私もずっとレガッタに居られたらいいのに」
ぼそりと呟いたララは、カディスの視線がブローチに向いているのに気づくと頭を下げた。
「アリーナ様を連れ戻したのは私です。また出過ぎた真似を、申し訳ありません。どうしても、私はあのままお2人が別れるのは見ていられなかったのです。今回限りにしますから、どうかお許しください。咎めは全てが終わった後に」
「ララ」
強くカディスに名を呼ばれたララは一瞬きょとんと目を瞬いた後、ふっと小さく笑った。
「ご心配なさらずとも、先程のあれはほんの冗談ですよ。勿論わかっています。私がドゥーブルに帰らなければ、『彼女』も帰ってきませんものね」
「違う。俺はそんなことを言いたいのではない!」
がたんと椅子を鳴らしてカディスが立ち上がったのとほとんど同時に、ノックも無しに客間の扉が勢いよく開いた。
「同じ国の支配者でも、これだけ違うのだとわかりました。この人なら、本当に戦いを終わらせてくれるかもしれないと思えたのです。私は私の望む未来のために、陛下のお役に立てるよう働きたい。今はただその一心です」
そう言い切ったララは、素早く抜いた剣を自身の首にあてがった。
白い肌に刃がくい込み、ぷちりと血の玉が浮く。
「な、何してるんですかっ、ララさん!」
「今まで黙ってお傍に居たこと、ドゥーブルの間者と思われても仕方ありません。信じてもらうには、こうするしか……私には方法が思いつかない」
悲壮な顔でぎりと歯を食いしばり、さらに腕に力を入れるララ。アリーナは考える前に彼女に飛びついた。
「アリーナ様! 危険です!」
慌てて剣を手放すララを、アリーナは強く抱き締める。
「アリーナ、様?」
「最初からそんなこと疑ってるわけない。いけ好かないって思ってたらそもそも仲良くしなかった。もうこういうことしないって、約束してくれたら離す!」
「……では、約束しないことにしましょうか」
沈黙の後そう答えたララにアリーナが思わず体を離して見上げると、ララがぎゅうと抱き締め返してきた。
「離して欲しくないので」
くすりとアリーナは笑う。ドゥーブルに向かうとなってララもずっと不安だったのだろう。そっと背を撫でた。
「あ、これお返しします。ブローチに彫られていたのは王家の紋章だったんですね。なんて言うか、ドゥーブルの王族は随分怖がられ……いえ、畏怖されているみたいですね」
「まあ、実際に怖がられていると思います。そういう国なんです。……どうぞお気になさらず」
ブローチを受け取ったララは苦笑した。
「『人質』としてではなく、私もずっとレガッタに居られたらいいのに」
ぼそりと呟いたララは、カディスの視線がブローチに向いているのに気づくと頭を下げた。
「アリーナ様を連れ戻したのは私です。また出過ぎた真似を、申し訳ありません。どうしても、私はあのままお2人が別れるのは見ていられなかったのです。今回限りにしますから、どうかお許しください。咎めは全てが終わった後に」
「ララ」
強くカディスに名を呼ばれたララは一瞬きょとんと目を瞬いた後、ふっと小さく笑った。
「ご心配なさらずとも、先程のあれはほんの冗談ですよ。勿論わかっています。私がドゥーブルに帰らなければ、『彼女』も帰ってきませんものね」
「違う。俺はそんなことを言いたいのではない!」
がたんと椅子を鳴らしてカディスが立ち上がったのとほとんど同時に、ノックも無しに客間の扉が勢いよく開いた。