今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
賑わっている場内とは打って変わって、外は静かだった。大きな噴水の端に腰掛ける。きっとこれはお行儀が悪いのだろうが、男も苦笑しながら倣ったので今晩はよしとしてもらおう。
「それで、あなたの想い人ってどんな人なんですか? 正直、私に似てるような人なら面倒臭いとと思いますけど」
いきなり本題に踏み込んだアリーナに、男が控えめに飲み物を吹いた。
「歯に衣着せませんね。……周りから見ればそうであったとしても、私は面倒臭いとは思ったことは一度もありません。あなたもそのように自分を卑下するものではありませんよ? 少なくとも、私はこの短い間ですがあなたを面倒臭いなんて思わなかった」
迷いなく言う男に、アリーナは声をうわずらせた。
「でもっ、例えばですよ? 何か言われたら突っかからずにはいられないし、優しくされたら恥ずかしくてそっぽを向いてしまうし、本当は嬉しいのに触られたらドキドキしてどうしていいのかわからなくなって跳ね除けてしまったりとかして……って聞いてます?」
アリーナの話を聞きながら、顔を、もとい仮面を両手でおさえて俯いていった男が、ああ、とぼんやり言って顔を上げた。何となくこちらを見てくれていないような気がする。
「いじらしいと思いはしても、やはり、それを面倒臭いとは思いませんが……」
しばし押し黙る。ぬるい息を零して、男は暗く声を落とした。
「でも、仮に彼女が自分のことを面倒臭いと思っているのなら。それは、私のせいなんです」
「……どうして?」
「私が彼女を守れなかったから。彼女は素直に生きられなくなってしまった」
絞り出すような、こちらの胸が苦しくなるほどに、悲痛な声で。
アリーナは黙って先を促した。
「彼女との出会いは、もう10年も前のことになります。初対面は最悪に近いものでした。私が彼女が住まわせてもらっていた店に転がり込んだせいで、よく思われていなかったのです。彼女は私を酷く警戒して、名前すら教えてくれませんでした。……でも、きっと心根が優しいんでしょうね。出て行け、消えろと突き放せばいいのに、それはできないんです」
顔はうつむけたまま、くっ、と男が小さく喉だけ鳴らす。
「彼女と店主に助けられる前、私は世界を怨んでいました。何も食べず野垂れ死のうと……考えていた時に助けられて、気がつきました。このままでは、自分自身が自分の生まれてきた意味を無かったことにしてしまうことに」
「それで、あなたの想い人ってどんな人なんですか? 正直、私に似てるような人なら面倒臭いとと思いますけど」
いきなり本題に踏み込んだアリーナに、男が控えめに飲み物を吹いた。
「歯に衣着せませんね。……周りから見ればそうであったとしても、私は面倒臭いとは思ったことは一度もありません。あなたもそのように自分を卑下するものではありませんよ? 少なくとも、私はこの短い間ですがあなたを面倒臭いなんて思わなかった」
迷いなく言う男に、アリーナは声をうわずらせた。
「でもっ、例えばですよ? 何か言われたら突っかからずにはいられないし、優しくされたら恥ずかしくてそっぽを向いてしまうし、本当は嬉しいのに触られたらドキドキしてどうしていいのかわからなくなって跳ね除けてしまったりとかして……って聞いてます?」
アリーナの話を聞きながら、顔を、もとい仮面を両手でおさえて俯いていった男が、ああ、とぼんやり言って顔を上げた。何となくこちらを見てくれていないような気がする。
「いじらしいと思いはしても、やはり、それを面倒臭いとは思いませんが……」
しばし押し黙る。ぬるい息を零して、男は暗く声を落とした。
「でも、仮に彼女が自分のことを面倒臭いと思っているのなら。それは、私のせいなんです」
「……どうして?」
「私が彼女を守れなかったから。彼女は素直に生きられなくなってしまった」
絞り出すような、こちらの胸が苦しくなるほどに、悲痛な声で。
アリーナは黙って先を促した。
「彼女との出会いは、もう10年も前のことになります。初対面は最悪に近いものでした。私が彼女が住まわせてもらっていた店に転がり込んだせいで、よく思われていなかったのです。彼女は私を酷く警戒して、名前すら教えてくれませんでした。……でも、きっと心根が優しいんでしょうね。出て行け、消えろと突き放せばいいのに、それはできないんです」
顔はうつむけたまま、くっ、と男が小さく喉だけ鳴らす。
「彼女と店主に助けられる前、私は世界を怨んでいました。何も食べず野垂れ死のうと……考えていた時に助けられて、気がつきました。このままでは、自分自身が自分の生まれてきた意味を無かったことにしてしまうことに」