今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
もう、アリーナの知っている『あの子』ではなかった。同じくらいだった背丈はとうに追い越され、身幅は言うまでもない。頬を押し付けた胸板はがっしりとしていて、布越しでもアリーナよりずっと体温が高かった。あれから10年、もうそんなに経ってしまっていたのだと、今更のように実感する。
とくん、とくんと揺れる心臓の音が聞こえる。自分のものか、ディーのものか、それはよくわからなかった。ただ、漸く、あの時凍りついた自分の中の時計が、軋みながらもゆっくりと動き始めたのだということだけははっきりとしていた。
洟をすすってアリーナは額をディーにぐりぐりと擦りつける。
「……ばか!」
何せ10年分だ。言いたいことはたくさん、それはもうたくさんあるはずなのに、結局出てきたのは誰かにも言ったような子供みたいな悪態で、ディーは可笑しそうに笑った。
「ごめん」
「早く、教えてくれればよかったのに。事情があったんだろうけど、生きてるってだけでも……」
「ごめん」
アリーナは膨れた。欲しいのは謝罪なんかじゃない。
「きっと私って気づいてたんでしょ? いつから気がついてたの?」
「どんな姿をしていようと、俺がアリーナを見紛うはずがない」
まるで、お前はわからなかったみたいだけどな、と責められているようだ。
思わずむっ、と更に頬を膨らませる。その頬を、ディーが両の手のひらで挟んだ。ぐいと顔を引き寄せられる。
「なあ、俺と一緒に来ないか」
「……え?」
突然の申し出に、アリーナはぽかんと間抜けに口を広げた。
「俺は、出会ったあの日からお前のことがずっと好きだった。そして、今も。離れていた間も、一瞬たりともアリーナを忘れたことは無い。こうして再び出会えたことは、運命だと思ってる」
一体ディーはどんな顔をしてこんなことを言っているんだろうか、とアリーナは空回りする頭でちらりと考える。
「俺を恨んでいても当然のことだと思う。でも、お願いだ。もう一度だけ、そばに居るチャンスをくれないか。今の俺ならお前を守れる。……誰より、大切にする」
綺麗で耳障りの良い言葉を並べたようで、その全てに切々とした思いが込められていた。想うからこそ、こういう素直な言葉しか選べなかったのだとわかった。熱くて、痛かった。冗談はやめてくれと、笑い飛ばしてごまかせないくらいには。
目が泳ぐ。どうするのが正解なのか、アリーナはちっともわからなかった。だから、思うまま口にすることにした。もしそれでディーが憤ってしまったとしても、仕方ないと思った。それでも言わなければならないと思った。
「出会った頃、最初は胡散臭いとしか思ってなかったけど、ディーが来てから腹が立つくらい楽しかった」
泣き笑いのような表情が浮かぶ。真剣に応えたいから、言葉は選べない。
とくん、とくんと揺れる心臓の音が聞こえる。自分のものか、ディーのものか、それはよくわからなかった。ただ、漸く、あの時凍りついた自分の中の時計が、軋みながらもゆっくりと動き始めたのだということだけははっきりとしていた。
洟をすすってアリーナは額をディーにぐりぐりと擦りつける。
「……ばか!」
何せ10年分だ。言いたいことはたくさん、それはもうたくさんあるはずなのに、結局出てきたのは誰かにも言ったような子供みたいな悪態で、ディーは可笑しそうに笑った。
「ごめん」
「早く、教えてくれればよかったのに。事情があったんだろうけど、生きてるってだけでも……」
「ごめん」
アリーナは膨れた。欲しいのは謝罪なんかじゃない。
「きっと私って気づいてたんでしょ? いつから気がついてたの?」
「どんな姿をしていようと、俺がアリーナを見紛うはずがない」
まるで、お前はわからなかったみたいだけどな、と責められているようだ。
思わずむっ、と更に頬を膨らませる。その頬を、ディーが両の手のひらで挟んだ。ぐいと顔を引き寄せられる。
「なあ、俺と一緒に来ないか」
「……え?」
突然の申し出に、アリーナはぽかんと間抜けに口を広げた。
「俺は、出会ったあの日からお前のことがずっと好きだった。そして、今も。離れていた間も、一瞬たりともアリーナを忘れたことは無い。こうして再び出会えたことは、運命だと思ってる」
一体ディーはどんな顔をしてこんなことを言っているんだろうか、とアリーナは空回りする頭でちらりと考える。
「俺を恨んでいても当然のことだと思う。でも、お願いだ。もう一度だけ、そばに居るチャンスをくれないか。今の俺ならお前を守れる。……誰より、大切にする」
綺麗で耳障りの良い言葉を並べたようで、その全てに切々とした思いが込められていた。想うからこそ、こういう素直な言葉しか選べなかったのだとわかった。熱くて、痛かった。冗談はやめてくれと、笑い飛ばしてごまかせないくらいには。
目が泳ぐ。どうするのが正解なのか、アリーナはちっともわからなかった。だから、思うまま口にすることにした。もしそれでディーが憤ってしまったとしても、仕方ないと思った。それでも言わなければならないと思った。
「出会った頃、最初は胡散臭いとしか思ってなかったけど、ディーが来てから腹が立つくらい楽しかった」
泣き笑いのような表情が浮かぶ。真剣に応えたいから、言葉は選べない。