今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
 侍女に促されて部屋に入る。適当にお辞儀をして顔を上げ、アリーナは目を眇めた。
 ひとことで言えば派手。天井から吊られた照明も随分煌びやかだ。

「ごめんなさいね、突然お呼びしちゃって」

 アリスティアがヘーゼルの瞳を細めて余裕綽々に笑う。こちらに座って、と向かいの椅子を指され、アリーナは渋々大人しく席についた。
 テーブルに置かれたカップの中に満たされた蜜色のお茶からはいい匂いがするが、あまり口をつける気にはなれない。

「もう回りくどい言い方はしないわ。ねえ貴女──どうやってカディスに取り入ったの?」

「……取り入った?」

 下世話な言い方に顔を顰める。

「ええ。だってあの子が傍に置くなんて……貴女に何かあるんでしょ? そうでもなければ、とても納得なんてできないわ」

「そんなの、何も」

 はっとアリーナは口を噤んだ。……そういえば、一つだけ確かなものがある。

 アリーナは無意識に首筋に手をやって、それを見たアリスティアの顔が凍りついた。

「なるほどね、そういうこと。ふぅん……面白く……ないわね」

 無表情のままカップを揺らし口をつける。もう一度こちらを向いた彼女の顔はきつく歪んでいた。

「私の方がカディスに必要とされているの。貴女は必要ないのよ。わかったのならもう話すことは無いわ。早くここから出て行って」

 そっちが呼んだのだろう、と文句を言いそうになってぐっと堪える。いや、流石にこれだけのために呼ぶはずはない。ということは何か予定が狂って? 或いは気分を害したか──?

「あー……ははあ、私のことが気に入らないからってマウント取ろうとしてたわけですね。血のことかは知りませんけど。そのためにわざわざ呼ぶなんて、随分とお暇ですことー」

 アリーナはふんとふんぞり返った。そうだ、この人は最初から感じが悪かった。挨拶に部屋に来た時もそう、晩餐会の時だってそう。あれは明らかにわざとだった。
 こんな人に礼儀正しくなんてしていられない。

「残念ながら特別なわけじゃないんですよ、あなたも……私も」

 自分で言ったくせに、ずきりと胸がいたんだ。

 アリスティアも少なからずダメージを受けたようで、狼狽えた様子で唇を戦慄かせる。

「い、言っておくけど、私はカディスが生まれた時から一緒なのよ!」

「生まれた時から……ですか?」

「そうよ」

 動揺したアリーナに気をよくした様子でアリスティアは腕を組んだ。
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