今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「……そう。まあ、あれだけ言えば流石に気がつくわよね。そういうことよ。だから部外者の貴女は手を引いてちょうだい。私はここであの子がやり遂げるのを見届けなくちゃいけない。あの子がこの国も潰すのをね」

「私の話聞いてましたか? だからそれが──」

「ここで止めれば、それこそ今までやってきたことが全て無駄になるわ。それでもいいと言うのかしら?」

「それは、っ……」

 アリーナはぐっと言葉に詰まった。その言い方は狡い。

「ねえ、賭けをしましょうよ」

 アリスティアが半ば減ったお茶にとぽんと角砂糖を落とした。

「明日、国を長く空けているわけにいかないからとレガッタの人たちは一旦ドゥーブルを発つことになっているわ。その時、私と入れ替わって貴女が人質としてここに残るの。それを喜んだら私の勝ち。怒ったら貴女の勝ちよ」

「そんなことをする必要が、どこに」

「私はカディスが好きなの。義理にはきょうだいだろうと関係ないわ。貴女もそうよね? 私はカディスのそばにいたいのよ。もう人質なんて飽き飽きだわ」

 とぽん。再び角砂糖が落ちる。

「だから、負けた方はもう勝った方に文句は言わない。言えないでしょ。残酷なほどわかりやすいわ。どう?」

「それであなたの気が済むってこと?」

「……貴女って弄れてるって言われない? 折角わざわざ面倒なことしてるのにそうやって容赦なく言ってくるから、ほんと気分が悪いわ」

 言葉とは裏腹にアリスティアは愉しそうににやりと笑った。

「乗ったってことでいいのよね」

「私だって……負けられないので」

「ふぅん、初めてほんの少ーしだけ感心したわ」

 アリスティアがカップに口をつけて嫌そうに唇を窄めた。甘かったらしい。

「入れ替わりの手筈はこちらで済ませるわ」

「どうぞ」

 そうぶっきらぼうに言って、アリーナはすっかり冷めたお茶に角砂糖を三つ投入した。適当に掻き混ぜるとぐいっと煽る。溶けきっていない砂糖がざらざらと舌に残って、うげっと顔を顰めた。
< 83 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop