今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
大切なのはあなただけ
翌日。
あの後事情を話すと頗る嫌そうな顔をしつつ渋々といったようすでララも了承した。
アリーナは具合が優れず病気の可能性があるということで、別の馬車に乗り込むことになっている。
アリーナという名のアリスティアが。
「では、私は先に行きますが……」
不満顔のララが荷物を持って名残惜しそうにこちらを振り返る。
「いいんです。私だってはっきりさせたいから。ま、自信は全然ないんですけどね」
にへらと笑ってララの背中を押す。何やら言っていたが部屋から追い出した。
暫くした後アリスティアの部屋に行き、成り代わることになっている。彼女曰くルグマはあまり部屋に来ないらしいので、それは良かったと思う。できればカディスたちが再びドゥーブルに来るまで気づかれずに終わりたい。絶対に面倒事になる。
……何だか自分が恐ろしいことをしているような気がしてきた。もうよく考えないようにしよう。
時間を見計らって部屋を抜け出す。他国の要人がいなくなったことで城内の人気は減っているので、人目を盗んでどうにかアリスティアの部屋に滑り込めた。
使用人は残していったようだが、彼女らはアリーナに目もくれない。アリーナがちゃんとやってきたことを確認すると別の部屋に引っ込んでいった。文句も言わないが関わらないというのが主人との妥協点なのだろう。
「ま、そっちの方が楽だけど」
呟いて、アリーナは楽な格好になるとばたんとベッドに飛び込んだ。思ったより疲れていたのか、目を閉じると、すうっと意識が途切れた。
きい、と微かに蝶番が軋んだ音で目が覚めた。そういえば鍵をかけていなかったかもしれないと思い返して青ざめる。
こつこつと誰かが歩み寄ってくる気配がする。今更どうすることもできないので慌てて頭まで布団を被って狸寝入りを決め込む。
ふっと影がかかった。早く立ち去れ、と念じながら我慢して必死に寝息っぽい音を立てる。
瞼が震え始めた時、がばりと布団が剥ぎ取られた。
「阿呆の婚約者も阿呆か」
聞き覚えのある声にぱちりと目を開ける。綺麗に整っているが冷たい顔。ドゥーブル国王、ルグマがこちらを見下ろしていた。品定めをするようなじっとりとした瞳だった。
アリーナがここにいることになぜか驚いた様子はなかった。
「本当に汝があれの心を射止めたのか? 余にはそこらの人間と変わらないように思えるが。容姿というならアリスの方が優れていよう」
強ばる唇を平静を装ってこじ開ける。
「……アリス──もしかして、アリスティアのことですか。……へぇ、愛称で呼ぶなんて随分仲がいいんですね?」
「他国の人質とはいえ少しは付き合いになるからな、それなりにだ」
ゆっくりと身体を起こそうとすると、ルグマがベッドに膝をついた。ぎっとスプリングが軋む。
あの後事情を話すと頗る嫌そうな顔をしつつ渋々といったようすでララも了承した。
アリーナは具合が優れず病気の可能性があるということで、別の馬車に乗り込むことになっている。
アリーナという名のアリスティアが。
「では、私は先に行きますが……」
不満顔のララが荷物を持って名残惜しそうにこちらを振り返る。
「いいんです。私だってはっきりさせたいから。ま、自信は全然ないんですけどね」
にへらと笑ってララの背中を押す。何やら言っていたが部屋から追い出した。
暫くした後アリスティアの部屋に行き、成り代わることになっている。彼女曰くルグマはあまり部屋に来ないらしいので、それは良かったと思う。できればカディスたちが再びドゥーブルに来るまで気づかれずに終わりたい。絶対に面倒事になる。
……何だか自分が恐ろしいことをしているような気がしてきた。もうよく考えないようにしよう。
時間を見計らって部屋を抜け出す。他国の要人がいなくなったことで城内の人気は減っているので、人目を盗んでどうにかアリスティアの部屋に滑り込めた。
使用人は残していったようだが、彼女らはアリーナに目もくれない。アリーナがちゃんとやってきたことを確認すると別の部屋に引っ込んでいった。文句も言わないが関わらないというのが主人との妥協点なのだろう。
「ま、そっちの方が楽だけど」
呟いて、アリーナは楽な格好になるとばたんとベッドに飛び込んだ。思ったより疲れていたのか、目を閉じると、すうっと意識が途切れた。
きい、と微かに蝶番が軋んだ音で目が覚めた。そういえば鍵をかけていなかったかもしれないと思い返して青ざめる。
こつこつと誰かが歩み寄ってくる気配がする。今更どうすることもできないので慌てて頭まで布団を被って狸寝入りを決め込む。
ふっと影がかかった。早く立ち去れ、と念じながら我慢して必死に寝息っぽい音を立てる。
瞼が震え始めた時、がばりと布団が剥ぎ取られた。
「阿呆の婚約者も阿呆か」
聞き覚えのある声にぱちりと目を開ける。綺麗に整っているが冷たい顔。ドゥーブル国王、ルグマがこちらを見下ろしていた。品定めをするようなじっとりとした瞳だった。
アリーナがここにいることになぜか驚いた様子はなかった。
「本当に汝があれの心を射止めたのか? 余にはそこらの人間と変わらないように思えるが。容姿というならアリスの方が優れていよう」
強ばる唇を平静を装ってこじ開ける。
「……アリス──もしかして、アリスティアのことですか。……へぇ、愛称で呼ぶなんて随分仲がいいんですね?」
「他国の人質とはいえ少しは付き合いになるからな、それなりにだ」
ゆっくりと身体を起こそうとすると、ルグマがベッドに膝をついた。ぎっとスプリングが軋む。