今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「……俺は……」
カディスが目を細める。その拍子に、ぽろりと一滴、雫が落ちた。
「お前がこの腕の中に居るだけで、怖いくらいに幸せなのに。望んでもいいのか? これ以上、お前が欲しいと」
こくりとただ頷く。
「俺はお前が思っているよりずっと欲張りだ。きっと止まらなくなる」
「いいよ。私に、どんなカディスも全部教えて」
カディスがそっぽを向いて舌打ちした。
「まったく、どうしてそんなに……」
口付けられながら押し倒される。息継ぎの間もないような深いキスに、意識がふわふわとする。
服に手がかかった。恐る恐るというようすでゆっくりと首元のリボンを解き、何度ももたつきながらボタンを弾く。
「……っ」
ぽたりとアリーナの頬に汗が落ちてきた。ぱちりと目が合うと、カディスが視線をずらした。
「悪い……き、緊張してだな」
その仕草が可愛らしくて、アリーナはくすりと笑った。
「本当かなあ。私なんて、身体は貧相だし、そんな美人なわけでもないし、色気もないと思うけど」
「……何だって?」
ぎりぎりと眉が釣り上がった。様子の変わったカディスにアリーナは動きを止める。
何故かわからないが機嫌を損ねたらしい。
「そうか、そんなふうに思っていたのか。誰に言われたか知らないが、やはり息の根を止めておくべきだったかもな」
知らないと言いつつ察しているようで、額に青筋が立っている。
ばさりと勢いよくカディスが服を脱ぐ。初めて見る上裸にアリーナは堪らず真っ赤になって顔を覆った。均整の取れた、無駄のない身体。つい指の隙間から見つめてしまう。
「待って待って! 駄目、やっぱ無理かも、一旦着て……!」
何と言うか、その。……これは、刺激が強すぎる。
「なるほど。お前、何故か随分余裕だなと思っていたが、よく分かっていなかっただけだったのか」
狼狽えるアリーナとは裏腹にカディスは何やらスイッチが入ってしまったらしい。ぺろりと唇を舐める。
アリーナの手を掴むと、無理矢理自分の腹部に触れさせた。
「安心しろ。俺も初めてだ」
「そういう問題じゃあ……っ!」
手に触れる素肌は、自分の──女性のものとは明らかに違う。アリーナは激しく跳ねる心臓を抑えて固まったままぐるぐると目を回す。
「お前の全てをくれるんだったよな」
ぱちん、と最後のボタンが外れた。ゆっくりと肌蹴られ、赤い瞳に見つめられる。その今までになく舐めるような視線にぞくぞくと背中が粟立って身体が震えた。
きっと自分は──期待している。
「み、見ないで」
「安心しろ。すぐに気にならなくなる」
触れられたことのなかった場所に手が伸びる。アリーナはただ熱い吐息を零した。
「ばか……」
カディスはにやっと無邪気に、酷く嬉しそうに笑った。
「嫌というほど教えてやるから覚悟するんだな。俺がお前を──どれだけ愛しているかを」
これまでも、そしてこれからも、この人以上に大切なものはできない。
人を愛するという気持ちを教えてくれた。苦しさも、愛しさも、彼でなければ感じなかった。
今、誰よりも近くにいる。傍に感じている。この人がつくる未来を見届けられる。
その何にも代えがたい幸せを噛み締めて目を閉じる。
今宵。ふたりきり、闇に閉じ込められて。
何よりも甘く、深く溺れるのだ。
Fin.
カディスが目を細める。その拍子に、ぽろりと一滴、雫が落ちた。
「お前がこの腕の中に居るだけで、怖いくらいに幸せなのに。望んでもいいのか? これ以上、お前が欲しいと」
こくりとただ頷く。
「俺はお前が思っているよりずっと欲張りだ。きっと止まらなくなる」
「いいよ。私に、どんなカディスも全部教えて」
カディスがそっぽを向いて舌打ちした。
「まったく、どうしてそんなに……」
口付けられながら押し倒される。息継ぎの間もないような深いキスに、意識がふわふわとする。
服に手がかかった。恐る恐るというようすでゆっくりと首元のリボンを解き、何度ももたつきながらボタンを弾く。
「……っ」
ぽたりとアリーナの頬に汗が落ちてきた。ぱちりと目が合うと、カディスが視線をずらした。
「悪い……き、緊張してだな」
その仕草が可愛らしくて、アリーナはくすりと笑った。
「本当かなあ。私なんて、身体は貧相だし、そんな美人なわけでもないし、色気もないと思うけど」
「……何だって?」
ぎりぎりと眉が釣り上がった。様子の変わったカディスにアリーナは動きを止める。
何故かわからないが機嫌を損ねたらしい。
「そうか、そんなふうに思っていたのか。誰に言われたか知らないが、やはり息の根を止めておくべきだったかもな」
知らないと言いつつ察しているようで、額に青筋が立っている。
ばさりと勢いよくカディスが服を脱ぐ。初めて見る上裸にアリーナは堪らず真っ赤になって顔を覆った。均整の取れた、無駄のない身体。つい指の隙間から見つめてしまう。
「待って待って! 駄目、やっぱ無理かも、一旦着て……!」
何と言うか、その。……これは、刺激が強すぎる。
「なるほど。お前、何故か随分余裕だなと思っていたが、よく分かっていなかっただけだったのか」
狼狽えるアリーナとは裏腹にカディスは何やらスイッチが入ってしまったらしい。ぺろりと唇を舐める。
アリーナの手を掴むと、無理矢理自分の腹部に触れさせた。
「安心しろ。俺も初めてだ」
「そういう問題じゃあ……っ!」
手に触れる素肌は、自分の──女性のものとは明らかに違う。アリーナは激しく跳ねる心臓を抑えて固まったままぐるぐると目を回す。
「お前の全てをくれるんだったよな」
ぱちん、と最後のボタンが外れた。ゆっくりと肌蹴られ、赤い瞳に見つめられる。その今までになく舐めるような視線にぞくぞくと背中が粟立って身体が震えた。
きっと自分は──期待している。
「み、見ないで」
「安心しろ。すぐに気にならなくなる」
触れられたことのなかった場所に手が伸びる。アリーナはただ熱い吐息を零した。
「ばか……」
カディスはにやっと無邪気に、酷く嬉しそうに笑った。
「嫌というほど教えてやるから覚悟するんだな。俺がお前を──どれだけ愛しているかを」
これまでも、そしてこれからも、この人以上に大切なものはできない。
人を愛するという気持ちを教えてくれた。苦しさも、愛しさも、彼でなければ感じなかった。
今、誰よりも近くにいる。傍に感じている。この人がつくる未来を見届けられる。
その何にも代えがたい幸せを噛み締めて目を閉じる。
今宵。ふたりきり、闇に閉じ込められて。
何よりも甘く、深く溺れるのだ。
Fin.