こちら妙石高校恋愛部!!

 ───ソクラテスの恋迷───

?「こんにちは。 ここが恋愛部だね」

恋「そうよ」

愛音「あら、 あなた生徒会長の冴識(さえしき)さんじゃない?」

冴識「ああ。 不肖ながらやらせていただいているよ」

蜜色「あぁ~学園の『ソクラテス』生徒会長だねぇ」

愛音「ソクラテス……?」

恋「ソクラテスっていうのは大昔の哲学者。 問答法っていう陰気臭い手法で当時の弁論家たちを論破しまくったとんでもない人間よ」

冴識「ソクラテスって,……なぜ僕はそんなあだ名になっているんだい?」

愛音「蜜色ちゃんは人にあだ名をつけるのが好きなのよ、 生徒会長さん。 気にしないであげて」

恋「話を進めるわ! 相談内容はなに?」

冴識「あ……ああ。 つまり、 小恥ずかしい話だ。 『今まで好きな人ができたことが無かったんが、 生まれて初めて好きな人ができた』んだ。 どうしていいのか正直分からない。 『どう仲良くなっていいんだか』とかそういうことが知りたい」

恋「初恋が18歳とはおっそいわね!」

冴識「まあそういわないでくれよ。 僕としては『恋愛は焦るものじゃない』って思っているし、『無理にするようなこと』でもないだろう?

恋「なにをいっての!この愚か者!」ビシィ!!

冴識「?!」

愛音「そうよー」

蜜色「そうだよぅ」

冴識「え……なんだいこのアウェイ感」
恋「あのね? 確かに恋っていうのは感情の中でも特殊で、 意図的に起こせるものとは違うわ。 でもね。 恋をしない男女に共通して言えるのは『異性を知ろうとしない気持ち』よ」

冴識「……」

蜜色「エロスでも可!」クワッ

愛音「蜜色ちゃんはちょっと静かにー」

恋「冴識くん。 あなたは確か、 IQ180を超すらしいじゃない。 勉強の方は?」

蜜色「もちろん学年1位だよぅ。 なんなら学校の先生よりも教えるのが上手くって、 ソクラテス先輩のクラスメイトは一律に成績が向上するみたい」

冴識「うん。 不肖この僕はクラスメイトにも勉強を教えることが多いよ」

恋「ふぅん。 勉強だって繰り返し繰り返ししてできるようになるのが普通なのに、 冴識くんは『恋愛は別にしなくてもいい』って考えるわけね」

冴識「……」

恋「最初に好きになった人と付き合って結婚する。 そんなの幻想よ‼‼」

蜜色「身体の相性だってあるんだから」クワッ!!

愛音「蜜色ちゃん。 しー……」

恋「いい? 10代の前半はとにかく『異性に興味を持つ』ことよ。 最初は恋愛感情じゃなくてもいい。 友達としてでも仲良くなるのよ。 積極的にね! それが異性とコミュニケーションをとる練習になるんだから! 大人になってからじゃ遅いのよ!」

冴識「いやしかし。 君の言いたいことはわかるけれど、 今はそんなこといいじゃないか。 まずは僕の相談である『初めて人を好きになってしまった僕は、 まだほとんど話したことのない彼女に対してどんなアプローチをかければ良いか』って方を答えてほしいんだ」

恋「待ってなさい! これが回答になっているんだから!」

愛音「冴識さん。 恋ちゃんの話をしっかり聞いた方がいいわ」

蜜色「ぶちょーは、 すごいよぅ?」

冴識「うむん……」

恋「あのね。 勉強だって反復練習、 スポーツだって反復練習、 恋愛だって反復練習なの。 冴識くんは男子だから、 不特定多数の女子と仲良くなろうと努力しなきゃいけない。 例え『特定の誰か』とだけ仲良くなりたくてもね。 だってそうじゃない? 『その子』だけに仲良くしようと心がけていたら、 『その子』からしたらすごく不自然。 他の女子とはそんなに仲良くなっているわけじゃないのに、 自分にだけ仲良くしてくれる男子が現れたって。 その瞬間に好意はばれるわッ‼‼」

冴識「……うん、 なるほど。 つまり、 『好きな人ができたら、 その人だけに目が行ってしまいがちだけれど、 異性全体に目を向けるようにすべき。 なぜなら、 好きな人だけを特別扱いすることで、 好きな人そのものが身構える、 もしくは不信感を抱き始めてしまい、 逆効果になる』ってことかい?」

愛音「さすが、 学年1位さんね」

蜜色「ソクラテス先輩の理解力は半端ないねぇ……」

恋「そう。 相手に不信感を抱かせず、 自然に仲良くなるためには、 冴識くんのキャラクターを『異性でも話しかけやすい存在』に変える必要があるの。 まずそれが目標よ」

冴識「ふむん。 結論はわかった。 なら、 その具体的方法をしりたいな。 結論を求めるだけで右往左往するのは合理的じゃない」

恋「ザイアンス効果。 単純接触の法則とも呼ばれる心理学の研究結果があるの。 これは『単純な接触を繰り返せば、 人は勝手に信頼していき、 良好な関係が形成される』という人の心理を示しているわ!」

冴識「なんだかパブロフの犬のようだね」

恋「ひょっとしたら、 条件反射も作用しているかもしれないけれど、 あたしとしてはサブミナル効果の方が近しい気がするわ」

冴識「潜在意識下での複数接触実験かい? よくそんなもの知っているね」

恋「冴識くんもね」

蜜色「ぶちょーとソクラテスさんの会話がうちにはわからないよぅ」

愛音「うん。 わからないね」

恋「話がずれた!そうじゃないわ」

冴識「いや、 伝わってるよ。 『挨拶』や『アイコンタクト』なんかのちょっとした接触を、 女子複数人に対して同時に行っていけばいいって話だろう。 それが繰り返されるうちに、 相手の方は勝手に『この人は話しかけやすい人だ』って認識になっていくから、 そのタイミングでそれらの人物に接触をしていけばいいんだね」

恋「うーん。 IQ180ともなると、 先読みでもできるようになるのかしらね、 正解よ」

愛音「冴識さんすごい」

蜜色「ソクラテス先輩ぱねぇっす」

恋「一応、 話をまとめておくわね。 『ほとんど話したことのない異性と交際に発展するには』って話よ。 第1に、 異性と話しやすい環境をつくりだすこと。 これはまず目的の異性以外の不特定多数の異性と仲良くなることでクリアするわ。 挨拶をするように心がけたり、 話さなくとも目を合わせるようにしたりね。 そのうえできっかけを自作しちゃえばいいのよ。 これが第2段階。 特定の女子との接触よ。 消しゴムを目の前で落としたり、 ハンカチ落としたり。 ほかにも素知らぬ顔で接触しちゃえばいいわ。 これはきっかけづくり。 どんな方法でも、 偶然でもいい。 一度話をすることができたのなら、 そのタイミングでお互いの2人称を確認すること」

冴識「ちょっとまって、 話をまとめるだけじゃなくて、 第2段階まで言ってるんだけど」

愛音「これが恋ちゃんクオリティよ、 冴識さんなら一度で理解できると考えて一気に話しちゃうつもりね」

恋「2人称の確認っていうのは言わなくてもわかるだろうけれど、 お互いの呼び名よ! 『名前』で呼んでほしいのか『苗字』で呼んでほしいのか『あだ名』で呼んでほしいのか。 こっちから指定してあげること。 そして実際に一度呼んでもらうのが望ましいわ。 こっちからは『なんて呼べばいい?』と問うのを忘れないこと。 大体「何でもいい」って返ってくるわ。 名前で呼びたければそれでもよし! そして実際に呼ぶこと。 最初の接触はそれくらいで及第点」

蜜色「エッチしてるときに苗字とかは萎えるよね、 やっぱ名前じゃなきゃ」

愛音「そうねぇ……え。 蜜色ちゃんって……」

冴識「ちょっとまった、 そっちの2人は少々静かにしてもらえないかい?」

恋「第3段階は連絡先の交換よ。 これは実際に何度会話を交わした後、 別れ際が望ましいわ。 なんとなくお互いがもう少し話したいって思うタイミングであえて席をはずそうとするのよ。 トイレに行くでも、 ちょっと用事があってでも何でもいいわ。 その時に、 『あ、 そういえば、 連絡先ってまだ交換してなかったね、 lineのID書いておくよ』とかいってさっと渡して席を外せばいいわ。 戻ってきたときに『帰ったらline登録だけでもしておいて』って言えば気楽にできるハズよ。 ここまで仲良くなっていれば、 自然とlineでも会話は弾むし、 どんどん仲良くなっていくきっかけも増える」

冴識「lineの交換……。 クラスでグループとかあれば、 『探して登録しておくよ』とかで十分機能するね。 そっちの方がどちらかと言えば簡単か……」

恋「まあね。 あたしとしては、 女子の立場だし、 男子にぐいぐい来てもらう分には結構嬉しいものがあるんだけど、 だからと言って全く興味のない男子に来られても怖いだけよ。 それ以前にある程度の信頼関係はやっぱどうしても必要よね」

冴識「ふむん……。なるほど。 参考になったよ、 ありがとう恋愛部のみんな」

愛音「今回は私たちの出番はあまりなかったわね~」

蜜色「まあうちは18禁分野担当だし、 愛音パイセンは知識じゃなくて経験譚によるサポートっていうのが大きいしぃ」

冴識「いや、……まあ君たちには少し気になるところがなくはないんだが」

恋「なによ?」

冴識「部長さんじゃなくて、 愛音さん?であっているかな。 」

愛音「私ですか?」

冴識「その指輪って」

蜜色「愛音パイセンはもう『結婚してる』からねぇ~」

冴識「ああ、 なるほど。 左手の薬指といえばまあそうかとは思ったけれど」

蜜色「うちよりエロエロな私生活ぅ」ニシシ

愛音「蜜色ちゃん! そういうことは言わないでー!」バタバタ

冴識「うちの校風ってそんなのも自由とは、 わが校ながら恐れ入る」

恋「ちなみに、 あたしは愛音のしてるハートの指輪と同じ種類のピアスよ」

冴識「ふぅん? 左耳についているそれかい?」

恋「そうよ! 目立たないようにしてるからあまり気づかれないのだけど」

蜜色「うちはネックレスぅ。 もらったぁ」エヘヘ

恋「このハートのピアス、 指輪、 ネックレスは恋愛部の証なの」

冴識「へぇ! そりゃあ大層なもんだね」

恋「あ!そうだ。 思い出した。 冴識くん。 生徒会長なら恋愛部の部費を上げてって最初の方に言うつもりだった」

冴識「恐ろしいことを考えるね。 まあ、 今回世話になったし、 活動状況に応じた額を割り振るのがわが校のしきたり。 であるなら、 『成立させたカップルの数』とか『仲たがいを防いだカップルの数』とか、 そういうのが恋愛部の実績となるんだろう? 僕の恋愛が成功し次第、 上げることも検討しよう」

愛音「恋ちゃんが言いたいことをいうの忘れるなんて珍しいわー。 どうしてなの?」

恋「まるで恋愛小説のように『恋愛は焦るものじゃない』とか『無理にするものじゃない』って聞いてムカついたからよ」

愛音・蜜色「「あー……なるほどー」」

恋「恋愛はどんどんした方がいいこと。 いっぱい人を好きになって、 その中で特別な人を見つけていけばいいだけで、 最初っから誰か1人に絞る必要なんてぜんぜんないのよ。 むしろ、 高校生活は恋愛をしなきゃって多少焦った方がいいくらい。 もちろん、 好きな人の攻略に関してはじっくり時間をかけて冷静になるべきだけど、 好きな人はどんどん作っていいのよ!恥ずかしことじゃないんだから!」

冴識「あれ、 これまた僕怒られる感じかい?」



『ソクラテスの恋迷(れんめい)』終わり
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