ケーキ屋の彼
数十分歩くと、さきほどのスーパーの横に出た。
「私寄って行くから、先行ってていいよ」
ここに来た本当の理由を知られないために、柑菜はみんなとここで別れようとする。
「待って、私お手洗いに行きたいから一緒に行っていいかしら?」
ーーどうしよう……。
少し迷う柑菜。
「うん、もちろん」
あまり拒否するのも怪しいと思われるかもしれないと思った柑菜は、そう言った。
柑菜と櫻子はスーパーへ、亜紀と涼は別荘へそれぞれ進む。
「ねえ柑菜ちゃん、なにかあったの?」
2人から少し離れ、数十台の車が止まっている駐車場に来た時に、櫻子は柑菜にそう聞いた。
さっきまでは気にしないふりをしていた櫻子だが、やはり何かに気が付いていたようだ。
そしてそれはおそらく、涼も同じである。
柑菜は、これ以上隠すのは無理だと感じ、櫻子に正直に話すことにした。
「ちょっとね……私、秋斗さんのこと諦めようかなあって思ってる」
「あら、どうして?」
驚いた様子の櫻子は、目を丸くしいつもよりも声が大きくなっていた。
しかし柑菜は詳しいことをはっきりとは言わずに濁す。
スーパーから出てくる家族の笑い声や、車の乗り降りする音が駐車場に響く。
その中で、柑菜は何も言わずにその音を聞いていた。