ケーキ屋の彼

歩く人々は、駐車場で立ち止まっている2人をちらちらと見ていた。


その視線に気づいた櫻子は


「柑菜ちゃんが言いづらいなら、無理して聞かないわ」


と言い、柑菜の手をぎゅっと握る。


秋斗の手とは違い、小さく女の人らしい柔らかい手。


ーー落ち着く……。


その手は、柑菜の固くなった心を徐々に解していった。


「ありがとう、櫻子」


「いいのよ。それに、恋ならきっとまた出会えるわ」


少しだけ、その握られた手が強くなる。


その強さの分、柑菜は心強さも増した。


そして、亜紀と同じことを言う櫻子に、柑菜はつい笑ってしまう。


ーーそうだよね、秋斗さんがこの世界のすべてじゃない。


柑菜は、櫻子のあたたかい眼差しで本来の笑顔を取り戻した。
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