ケーキ屋の彼
「柑菜ちゃん、大学院のこと嫌だった?」
リビングに戻る柑菜に駆け寄る美鈴の顔は、不安でいっぱいそうだ。
柑菜はその美鈴を見て、心底申し訳ない気持ちになる。
自分の小さい恋心と嫉妬心のせいで、相手を不安な思いにさせてしまったと柑菜は悔いた。
「違うんです、本当に買い残しがあって……」
だからこそ、その恋心を奥底にしまい、何事もなかったかのように接する。
「よかった……」
柑菜の言葉を聞いた美鈴はの顔は、安心していた。
その顔は、どこかお母さんを思い起こさせた。
まだ会って間もない人をこんなにも考えてくれる人だからこそ、秋斗はきっと美鈴を好きになったのだろうと、柑菜は思う。
自分なんかよりも、何十倍も素敵な人だとーー。
「ねえ、そろそろカレー作らない?」
タイミングを見計らって、亜紀は冷蔵庫から具材を取り出していた。
柑菜を見る亜紀の目は、どこか冷たく感じる。
それを涼は見逃さなかった。
「そうしよっか」
ひと段落した6人は、それぞれ分担を決め、カレー作りに取り掛かった。