ケーキ屋の彼

「柑菜ちゃん、人参の大きさはこれでいいかしら?」


普段料理をしない人参を担当している櫻子は、困っていた。


ーー料理くらい、やっておくべきだったわ。


包丁を持つ手もなんだか不器用で、その様子を見ている方がハラハラしてしまう。


「うん、そんな感じでいいと思う。でも、もう少し大きくてもいいかな」


可愛らしいサイズの人参は、子供にはきっと大変好かれるだろう。


櫻子のアドバイスをしながら、柑菜は手つきよく玉ねぎを切っていた。


その隣でジャガイモの皮を剥いている涼は、目を抑えて上を向いている。


「柑菜……玉ねぎが……」


その目には、涙が溜まっていた。


もちろん、悲しいわけでもなく笑いすぎたわけでもない。


「ごめん、でも、我慢して」


謝りつつも、玉ねぎを切る手を止めない柑菜。


もちろんカレーに玉ねぎが必要なことを知っている涼は、それ以上は何も言わない。


玉ねぎをテンポよく切る音が、キッチン中に鳴り響く。


「待ってて、すぐ切り終わるから」


ティッシュで涙をふく涼の隣で、すごい勢いで玉ねぎを切っている柑菜の姿は笑いを誘った。
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