ケーキ屋の彼

「私カレー、見てきますね」


この雰囲気に耐えきれそうにないと感じた柑菜は、カレーに逃げる。


柑菜が席を立った数秒後、秋斗も席を立った。


それに気がつかない柑菜は、誰にも見られていないと思い「ふう」とため息をつく。


「疲れたの?」


「あ、秋斗さん!」


いきなり聞こえてきた甘い声に驚く柑菜。


てっきりソファに座っているとばかり思っていた柑菜。


ーー心臓、止まるかと思った。


「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだ」


柑菜の様子を見て、焦りながら謝る秋斗。


「いえ、こちらこそなんだかすみません……」


「実はね、これをカレーに入れるために今ここに来たんだ」


秋斗は冷蔵庫からチョコレートを一欠片取り出し、カレーの中に入れた。


「よく知られた隠し味だけどね」


口角を上げて言う秋斗の顔を、柑菜はつい見つめてしまう。


ーー可愛い笑顔……。


柑菜にとって完璧であるその笑顔に、つい見惚れてしまう。

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