ケーキ屋の彼
みんなが楽しむ中、怪しく亜紀が柑菜のもとに近寄って、釘を打つように耳元でささやいた。
「恋の邪魔、しちゃだめだよ?」
先ほどのキャンディの一部始終を、亜紀は実は見ていた。
あくまでも穏やかな声で諭すような声の亜紀。
しかし、それは着実に柑菜の心を蝕んでいた。
「うん……分かってるよ」
ーー言われなくたって、秋斗さんにとって美鈴さんが特別な存在だってことくらい分かる……。だって、どうでもいい人に自分のお店を手伝ってほしいとは、私だったら思わないもの。
柑菜は、ポケットに入っているキャンディをぎゅっと握った。
それでも、好きという気持ちを消すことはできないから、その思いをこのキャンディにぶつけるのだ。
亜紀は、どこか満足気な顔をして美鈴に話しかけに行った。
亜紀の異常な空気を感じ取っていた櫻子は、すぐに柑菜のもとに駆け寄る。
「柑菜ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。なんでもない」
「そう……」
ざあっと聞こえてくる波の音は、何か大切なものを奪っていくように、櫻子の耳に聞こえるのだった。