ケーキ屋の彼

柑菜は、顔の半分を温泉の中に隠す。


「美鈴さんも、分かってらしたんですね」


「櫻子ちゃんも?」


うふふ、と櫻子は微笑んでいる。


「柑菜分かりやすいもんね」


亜紀がそういうと、柑菜はついその顔をタオルで隠した。


まさか、みんなにばれているとは思っていなかった柑菜は、顔が茹蛸のように真っ赤だ。


「大丈夫、秋斗は鈍いからばれてないと思うわ」


「でも秋斗さんは……」


そこまで言って、柑菜は話すのをやめた。


ーーでも、秋斗さんが好きなのは美鈴さんなの……!


声に出せない気持ちを、柑菜は心の中で叫ぶ。


その叫びは、心に突き刺さって柑菜から笑顔を奪う。


「美鈴さんは秋斗さんと仲が良くて、羨ましいです……」


本当は、秋斗に好かれる美鈴が羨ましいというのが柑菜の本心であったが、柑菜はそれをそのような言葉で表現した。


それが柑菜ができる精一杯のやきもち。


そう呟いた柑菜を、美鈴は「可愛いなあ」と頭を撫でた。


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