ケーキ屋の彼
「え、諦めるんですか?」
亜紀から聞いている秋斗の好きな人を知っている柑菜は、その片思い相手にそう言った。
「うん、だって秋斗は私のこと好きじゃないでしょ? ただの幼馴染だもん」
「それって本人から聞いたんですか?」
「……聞いてないけど、分かるよ」
柑菜は、もやもやする心を抑えられず「そんなの分からないじゃないですか! 思いは伝えないと伝わらないんです」と年上の美鈴に、まるで説教をしているようだ。
柑菜はすぐに我に返り、「あ、ごめんなさい」と言う。
「恋のライバルにそんなこと言うなんて、柑菜ちゃんって面白いのね」
恋のライバル、という言葉を聞いた柑菜は、自分がその土台にすら立てていないと悔しい気持ちになった。
「この夏に伝えようと思ってたから……それにしても双子ってやっぱり似てるわね」
「涼もなにか美鈴さんに失礼なこと……?」
柑菜は、まださきほどの説教じみた言動を反省していた。
「背中を押してくれただけ」
柑菜は、涼がそんなことをしたことが想像できなくて、内心驚いていた。
そして『背中を押してくれた』と言う美鈴に、心の広さを感じるのだった。