ケーキ屋の彼
「誕生日ケーキ、お探しなんですか?」
柑菜たちの話を聞いていたのだろう、目の前にいた柑菜の片思いの相手が、2人にそう尋ねた。
「はい、友達に」
「それでしたら、三種のベリータルトなんていかがですか?」
ショーケースの上段の真ん中にある、ベリーの散りばめられたタルト。
「まあ、いいわね」
柑菜は、先に言葉を発した櫻子に少しだけジェラシーを感じる。
一言でも多く、会話のキャッチボールをしたい、その思いをもちろん櫻子は知るはずもない。
そんな櫻子は、柑菜の方を向く。
「柑菜ちゃん、タルトにしましょ?」
鶴の一声、とでも言うのか、ケーキ選びは一瞬で終わってしまった。
そのことに、少しだけ残念がる柑菜は、いつもよりほんの少し低いトーンで「うん、そうだね」と返事をする。