ケーキ屋の彼
柑菜は急に、もしかしてあれは亜紀の嘘だったのかもしれないと思い始めた。
考えれば、恋愛の話をするほど2人が仲が良いとは思えない。
でも、亜紀が柑菜に嘘を教える理由が、柑菜には到底思いつかなかった。
「俺は、秋斗さんから直接聞いた。美鈴さんのことは幼馴染として大切に思ってるって」
涼は、1日目の温泉の時を思い返す。
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秋斗と涼は、風を感じながら温泉に浸かっていた。
女子4人とは違い、こちらは落ち着いていて、2人は空に浮かぶ月を見ていた。
「そういえば、昔夏目漱石は生徒にI love youの訳を聞かれて、月が綺麗ですねと訳せば日本人には伝わると言ったらしいですね」
秋斗は、月を見ながら涼にそう話す。
「秋斗さんは、誰か好きな人いるんですか?」
「僕は……気になっている人はいますよ。ーーさんです」
秋斗が名前を言った瞬間、突然風が吹いてきて、涼はその名前を聞き取ることができなかった。
風はすぐに収まり、再び静寂を取り戻す。
名前は聞き取れなかったものの、『さん』付けをしているということは美鈴ではないということだけは分かった。
「じゃあ、美鈴先輩は?」
意を決して、涼は秋斗にそれを尋ねた。
本当は、自分がただそれを聞きたいだけだ。
「美鈴は、幼馴染として大切に思ってるよ。でも、恋とは違う」
秋斗は美鈴の思いに気づいているのか、雲に半分隠れた月を見ながら切ない声でそう言った。
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