ケーキ屋の彼
夏休みも1か月ほど過ぎた頃、柑菜は櫻子と大学にいた。
夏休みの課題で、何か1つの作品を完成させるものがあり、2人はそれに取り掛かっている。
夏休みは校舎には人の出入りも少なく、静かな空気が流れていた。
窓を開けているので、風が吹くと外からは木の葉っぱが擦れるさあっという音が聞こえてくる。
「ねえ、櫻子」
柑菜は絵を描くのを中断し、心の中に引っかかっているあのことを話し始める。
櫻子には話さないでおこうと思った柑菜だったけれど、やはり友人の意見を聞きたくなってしまった。
「なあに?」
「亜紀のことなんだけど……」
櫻子は作業をやめ、柑菜の顔を見た。
「秋斗さんが美鈴さんを好きだって、嘘をつかれたの」
それを聞いた櫻子は、『やっぱり』といった顔をし、何かを考えているようだ。
「亜紀ちゃん、美鈴さんのことすごく慕ってるでしょう? だから、きっと美鈴さんの恋を応援したくて、でもそのためには柑菜ちゃんに諦めてもらわなければならくて、だからそう言ったんじゃなないかしら」
本当のことは亜紀ちゃんに聞いてみないと分からないけれど、と櫻子は付け加える。
もし柑菜が亜紀の立場だったら、自分の大好きな先輩が友達と同じ人好きだと言ったら……自分はどうするだろう……柑菜は考えたけれど、答えは出なかった。