ケーキ屋の彼
「じゃあ、行こうか」
2人は、チョコレート展を目指し駅から離れた。
2人の微妙な距離の間を、風が通っていく。
目の前を歩くカップルは、手を繋いでいてすごく親しそう。
柑菜はそのカップルを見ていると、今は楽しいはずの時間なのに少しだけ虚しさを覚えた。
快晴ではあるもの、もうすっかり夏から秋に変化したその風は少し冷たい。
その風が、なにも持っていない手にあたる。
「あそこかな」
秋斗が指をさしている先に、人が集まっている場所があった。
その手には、可愛らしいサイズの紙袋があり、そこにはCHOCOLATとフランス語で書かれている。
ベンチに座ってチョコレートを食べている人の姿もあり、そこが会場であるということはすぐに分かった。
「試食もたくさんあるらしいし、楽しみだね」
「はいっ」