ケーキ屋の彼
中に入ると、チョコレートでできた1メートルくらいはあるであろうアート作品が何個も飾られていた。
まるでチョコレートでできているとは思えないその作品に、柑菜はつい釘づけになる。
どうやって作ったのだろうと、美術的な観点からそれらを眺めていた。
「すごいよね」
「はい、チョコレートって意外と割れやすいし、こんな風にアートにしてしまうなんて」
中には、この時期にぴったりのランタンの作品もある。
「あ、あそこで何か試食してるみたいだ」
一通り作品を見て回ると、次はいよいよチョコレートの売り場にやってきた。
日本には出店していないフランスのチョコレート店。
フランスに行かないと食べられないチョコレートを目にした柑菜は、まるで子供のようにはしゃいでいる。
「あら、秋斗……よね?」
でも、その一言で柑菜は急に冷静になった。
秋斗を呼ぶ、女の人の声。
その人は、親し気に秋斗のことを呼び捨てにする。