ケーキ屋の彼
「真莉……?」
「やっぱり、秋斗よね!」
その人は目の前で、秋斗に抱き着いた。
そして、その頬を秋斗にくっつける。
これがフランスの通常の挨拶であることを知らない柑菜は、居ても立っても居られない気持ちになった。
何を期待して今日ここにきてしまったんだろう、それだけが柑菜の心を埋め尽くす。
「久しぶり」
「ああ、久しぶり」
ーーああ、だからきっと美鈴さんは秋斗さんのことを諦めるって言ったんだ……。
言われなくてもなんとなく分かる2人の雰囲気。
「いきなり日本に帰ってしまったあの日から、すごく寂しかった」
「あの時は……ごめん」
「謝らなくていいの。……そういえば、隣にいる方は、……友人?」
真莉の『友人』という言葉に柑菜は、線を引かれたように感じた、あなたは私たちの間には入れないのよ、と。
「うん……そうかな」
「初めまして」
それでも柑菜は、その場の空気を悪くしないようにと笑顔を貫く。
でも本当は、ここから去りたくてどうしようもなかった。