ケーキ屋の彼
でも、それよりも1番柑菜が聞きたかったのは、フランスに秋斗が戻る気があるのかないのか。
「ねえ、あそこのチョコレートすごく美味しいからちょっと食べてみない?」
「はい……」
このチョコレートだって、きっとフランスで2人で食べていたんだと、柑菜は勝手に思い、勝手に落ち込む。
その姿を見て、秋斗は口を開いた。
「柑菜ちゃん、……もしかしたらこんなこと、柑菜ちゃんにとってはどうでもいいことかもしれないけど、僕は今のほうが大切なんだ。昔とかそういうことに縛られるのはやめにした。……美鈴と柑菜ちゃんのおかげなんだよ、そう思えたのは」
「それってどういう……?」
「だからつまり……今を楽しもう、ね?」
秋斗は、柑菜の前に手を差し出す。
柑菜はゆっくり、その手に自分の手を重ねた。
すると、秋斗の手が柑菜の手をぎゅっと握る。
「せっかく美味しいものがあるんだから、楽しまないと損」
「そうですね」
柑菜は、大きくて男らしい秋斗の手を握り返した。
しかし、その2人の表情とは真逆の表情を浮かべて秋斗と柑菜を見つめる真莉の姿がそこにはあった。