ケーキ屋の彼
「うん、分かった」
涼は、少し考えた後にそう答える。
「楽しみだね、今日も美味しいチョコ食べたんだけど、2人っきりっていうのに緊張して、明日ならいつものメンバーだしきっと今日より楽しめるはず」
「……なんかあった?」
「…………」
何かを話していれば、今日のことを考えなくて済む、そうしたら少しだけ楽になれる。
嫌なことや泣きたくなるようなことがあると、いつもよりも口数が多くなるのは幼い頃からの柑菜の癖。
双子の涼には、それがすぐに分かる。
そして、それは言葉を聞かなくても涼には分かってしまう。
柑菜の目から流れる涙の量は、きっと今までは我慢してきたものが溢れたもので、それは止まることなく静かに流れ続ける。
「フランス……行っちゃうんだ、秋斗さん」
「…………」
「でも、フランスに行ってもっとお菓子の勉強して、私に美味しいお菓子食べさせてくれるんだって」
柑菜は涙を流しながら、羨ましいでしょ? と笑っている。