ケーキ屋の彼
櫻子は鞄から1つキャンディを出して、柑菜に渡す。
「これね、すごく落ち着くのよ」
ハーブと蜂蜜でできたキャンディは、綺麗なスプリンググリーンの色をしていて、透き通っている。
柑菜はそれを口に含む。
すると、不思議に櫻子の言う通りに、カチカチに固まった心がすうっと柔らかくなっていくのが分かった。
「美味しい」
「でしょう? 昔誰かに頂いたのをきっかけに私のお気に入りになったの」
蜂蜜の自然な甘さが、すごく心を穏やかにさせる。
そして、ハーブの香りは新しい風を吹かせてくれるようだ。
「あのね、秋斗さんがフランスに行くことがどれだけ有意義なことかっていうのは分かってるの」
柑菜は先ほどのように涙流すのではなく、淡々と話をしている。
「だから、行って欲しくないって思うことは夢を壊すことだって。……分かってるし、そんなこと言う権利なんてないんだけど、それでもやっぱり寂しいんだ。それに……秋斗さんの元彼女もいる……」
フランスに行って、また2人が同じ時を過ごすようになったらと考えると、柑菜の心は居ても立っても居られない。
でも柑菜は分かっている、これは、ただの嫉妬。