ケーキ屋の彼
櫻子は何かを言うわけでもなく、柑菜の話を「うん」と聞いていた。
でも、それが柑菜にとってはとても心地よくて、少しずつではあるけれどいつもの自分を取り戻してきた。
外はもうすっかり暗くなっていて、残念ながら今日の空には星は輝いてはいなかった。
そんな時『ぐう』っとお腹の音が聞こえてきた。
柑菜は恥ずかしそうに「えへへ」とごまかしている。
「櫻子、何か食べない?」
「そうね」
2人が下に降りると、涼がいつもの通りソファに座って、連続ドラマを観ていた。
「冷蔵庫にあるから、さっきの料理」
「ありがとう」
ぶっきらぼうに言う涼を見て、さきほどの出来事を思い出した柑菜は急に恥ずかしくなる。
ーー弟の前で、恋愛のことで涙を流すなんて。
「櫻子はフルーツとかでいい? ごめんね、それしかなくて」
「ええ、私はもう夜は食べたから大丈夫よ」
柑菜はぶどうやりんごを食べながら、最近始まった授業のことについて笑いながら話していた。