ケーキ屋の彼

櫻子は何かを言うわけでもなく、柑菜の話を「うん」と聞いていた。


でも、それが柑菜にとってはとても心地よくて、少しずつではあるけれどいつもの自分を取り戻してきた。


外はもうすっかり暗くなっていて、残念ながら今日の空には星は輝いてはいなかった。


そんな時『ぐう』っとお腹の音が聞こえてきた。


柑菜は恥ずかしそうに「えへへ」とごまかしている。


「櫻子、何か食べない?」


「そうね」


2人が下に降りると、涼がいつもの通りソファに座って、連続ドラマを観ていた。


「冷蔵庫にあるから、さっきの料理」


「ありがとう」


ぶっきらぼうに言う涼を見て、さきほどの出来事を思い出した柑菜は急に恥ずかしくなる。


ーー弟の前で、恋愛のことで涙を流すなんて。


「櫻子はフルーツとかでいい? ごめんね、それしかなくて」


「ええ、私はもう夜は食べたから大丈夫よ」


柑菜はぶどうやりんごを食べながら、最近始まった授業のことについて笑いながら話していた。
< 150 / 223 >

この作品をシェア

pagetop