ケーキ屋の彼

「今まで認めてもらえたのはこれ1つよ」


柑菜の目をじっと見て、低い声でそう言う。


真莉はそれを言うと、待っている他のお客さんの接客に戻った。


たった一言だが、柑菜には分かるその言葉の重さ。


この1つを作るのに、だれだけの努力が、どれだけの忍耐が必要であったか。


それも、異国の地という慣れない場所で。


大学院に行くことさえまだ迷っている自分と比べ、真莉がどれだけこのチョコレートに思いを込めているのか、その生半可ではない彼女の気持ちに柑菜はすべての面で自分が負けたような気がした。


柑菜はそれを一箱手に取ると、真莉に渡す。


真莉は特に何も言わず、そつなく接客をこなした。


それを見ていた涼や櫻子は、柑菜に特に話しかけることはなかった。







「ねえ、あっちでコーヒー飲めるみたいだよ」


亜紀が指差したのは、チョコレートの販売ゾーンの奥にあるスペース。


昨日はなかったCaféの看板がそこにあった。
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